永き眠りからの目覚め

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 冷凍睡眠から覚めて1年が過ぎた。  1年という時間はあっという間だった。冷凍睡眠後の身体検査、治療の確認、治療の開始、治療後の身体検査、リハビリ。これらを1年かけて実施し、私はようやく自由な身体を手にすることができた。  病院を出ると、晴れやかな陽射しに照らされた。  以前と比べ、気温は穏やかになっていた。数十年間におよぶ人類の努力の恩恵だろう。  私は空に微笑みかけると、足を前に出して階段を降りていった。最初のうちは数十分かけて降りていた階段も今ではものの数秒で降りることができる。  ようやく普通になれた。そのことが何よりも嬉しかった。  階段を降りると目の前に一台の車と老翁の姿があった。  私よりほんの少し高い背。すっかりと白くなってしまった髪に、数の多いシワ。本当は私よりも年下なのに、彼からしたら私は孫のような存在だろう。 「ささ、姉さん。僕の家まで案内するよ。車に乗って」  弟の日向(ひなた)は助手席のドアを開けると、私に入るように促す。容姿は変わっても、性格は以前と少しも変わらず、優しいままだった。私は「ありがとう」と感謝をしながら助手席に乗った。  そこで私は少しだけ驚いた。車にはハンドルが見られなかったのだ。  おそらく完全型自動操縦車であろう。以前、日向からもらった情報端末装置で閲覧した記憶がある。だが、実物を見るのは初めてだった。  約70年が経ち、世界は大きく変わってしまった。それが分かっていても未だに些細なことで驚いてしまう。これからこの中で生きていくのかと思うとちょっと不安になる。でもそれ以上に、今は期待が大きい。  運転席に座る日向は車に搭載されたカーナビで目的地を設定する。カーナビは車とリンクしているのか目的地が設定されるとひとりでに走り出した。事故が起こらないか心配になるが、「まだ一度も事故を起こしたことないから大丈夫だよ」という日向の言葉を信じる。  車は病院を飛び出し、街の方へと走っていく。  液晶パネルが映し出される道路。金属で作られた建物。変化する街行く人が着る服。全てがデジタルに繋がった街となっていた。 「姉さんに、退院祝いに渡したいものがあるんだ」  二人してゆったり街の景色を眺めていると、日向が私に手を差し出す。  握られていたのは一枚の封筒だった。『親愛なる我が娘へ』と書かれた封筒。亡くなったお父さんとお母さんの書いた手紙だった。  私は日向の方を向く。彼は以前と変わらない優しい瞳を私に向け、ゆっくりと頷いた。  封筒を反転させ、封を切る。中には一枚の便箋が入っており、両親から私宛にメッセージが綴られていた。 『親愛なる娘 由里香へ  退院おめでとう。これからあなたは自由の身です。  今まで抱え続けてきた不満を吹き飛ばすほど充実した人生が送れることを願っています。  あなたの人生なのですから、あなたのしたいことを精一杯してください。  また会えた時、あなたが過ごした人生の話を聞かせてください。  私たちはいつまでもあなたを愛し続けています。  あなたの父・母より』  手紙にはそう綴られていた。  短い文章。でも、それだけで私には十分だった。  お父さんとお母さんは決して私を悪く思っていなかったのだ。それが知れて私はとても嬉しかった。    だからだろうか、今まで溜め続けてきた気持ちが涙となって溢れ出てきた。  私は強く泣いた。日向は私の背中をゆっくり丁寧にさすってくれた。  両親の手紙で、私はようやく過去の苦しみから解放された気がした。  きっとこれからは明るい未来が私を待っている。
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