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「難しい話だよ。こうなってしまった根本の原因は『技術が進歩しすぎた』になるからね」
その夜、私は日向に今日あった出来事について話した。日向は長話になるかもしれないと思ったのか、2人分の紅茶を注いでくれると私の前に置き、向かい側の席に座った。
「技術が進歩しすぎた?」
「30年くらい前になるかな。世界で技術革新が起きたんだ。それで巨万の富を手に入れたこの国で非常に大きな格差が発生し、『超々格差社会』になってしまったんだ」
「超々格差社会……」
確かに私がいた頃にもそんな話がニュースで取り扱われていた。その時は『超格差社会』なんて言われていたが、その差がさらに広まってしまったらしい。
「格差により大貧民なるものが生まれた。それで一時期『餓死』が流行してしまったこともある。政府はそれを防ぐために一定所得以下のものに対して『出生規制』を行うことにしたんだ。でも人間、欲望には逆らえない。大貧民たちは秘密裏に子供を産んでいた」
「その子供は政府にバレなかったの?」
「政府は住民登録しているものしか管理できないからね。秘密裏に生まれてしまった子供まで管理はできない。だからこそ、今この国には多くの非住民の孤児が存在する」
なんてことだろうか。私が冷凍睡眠している間にそんな恐ろしいことが起こっていたなんて。きっと孤児は私のように普通の生活が送れず、寂しい思いをしている子たちが多いはずだ。彼らは私たちの姿を見て、そう思っているに違いない。
「何か彼らにしてあげられないかな」
「……姉さん。父さんや母さんから言われたことはまだ覚えている?」
「うん、もちろん。今でも手紙は大切に持っているから」
「そっか。僕も父さんと母さんと同意見だ。小さいながらも姉さんが苦しんでいたのは知っているからね。僕も老人だ。寿命も残りわずかだろう。でも、その間は姉さんがやりたいことを全力でアシストさせてもらうよ」
「日向……ありがとう」
私は弟の目を見て、微笑みかける。体がどれだけ変わっても、心はあの頃のまま少しも変わってなかった。私だけじゃない。私に恩地を授けてくれた家族のためにも自分のやりたいことをしよう。
弟が注いだ紅茶は時間が経っても冷めることはなく、温かかった。
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