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私は商店街周辺を散歩していた。
休日の商店街はたくさんの人で賑わっていた。大勢の客の中で目的の人物を探すのは難しいかと思われたが、案外簡単に見つけることができた。身だしなみが浮いていたのだ。
建物の一角を盾に身を潜める少年の後ろに回り込み、ゆっくりと近づく。
少年は前ばかり見ていてこちらの存在に気づくことはない。数日前にあんなことがあったと言うのに警戒心が無さすぎる。私はぎゅっと彼の肩を掴んだ。
「っ!」
驚いた顔でこちらを振り向く。体を一歩後退させる。だが、すぐにその足が止まった。
少年は私が手に持っている『お菓子の袋』に視線を向けていた。分かりやすい子だ。
「一緒に食べよ」
私はニッコリ微笑んで彼に言う。彼は私を警戒するもゆっくりと頷いた。
2人で建物に保たれて座る。お菓子の封を開け、少年に差し出した。彼は袋を持つとものすごい勢いでお菓子を食べる。よっぽどお腹が空いていたのだろう。
「名前は?」
「風馬(ふうま)」
「いい名前だね。ご両親は」
「いない。三年前に捨てられた」
少年はあっさりそう言った。私がこの世界に適応したように、少年も今の環境に適応してしまったのだろう。だから両親がいないという事実をすっかり受け入れてしまっている。
「そっか。辛かったね」
「うん、すごく。将来も不安だし。死んじゃった方が楽かななんて思ったりする」
目尻には涙が浮かんでいた。まるでお酒を飲んだかのようにお菓子を食べた少年は自分の気持ちを素直に吐露する。私は自然と少年の頭を撫でていた。頬に涙が伝う。私も泣いているみたいだ。
彼の想いが聴けただけで今日ここにきた甲斐があった。
すると、不意に視界に緊急通話が入った。相手は日向の妻。私はすぐに通話を入れた。
「由里香さん、主人が倒れました。今病院に向かっておりますのですぐに来ていただいていいですか?」
彼女の言葉に私は目を大きくした。いつか来ると思っていたが、その時はあまりにも早すぎた。私は立ち上がるとバッグに入った水筒を少年の横に置く。
そのまま少年の顔を見ることなく、病院の方へと走っていった。
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