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「あと保って3ヶ月と言ったところでしょう」
医者から受けた宣告に私は頭の中が真っ白になった。
日向の妻は冷静に「そうですか」と答える。彼女の表情を見ると涙ながらも覚悟していたように感じた。それから医師から延命措置等の説明を受けることとなった。
「ねえ、おばさん」
病室を出るや否や、私は彼女に声を掛ける。他の誰かに聞こえないように小さな声でしゃべった。
「おばさんは日向が『末期のがん』だってこと知っていたの?」
「……ええ」
束の間、リアクションに困っていたものの観念したようにあっさりと肯定した。
「どうして治療しなかったんですか?」
「……これからする話は主人には内緒にしていただいていいですか?」
私は彼女の言葉にゆっくりと頷いた。
「がんが発見されたのは由里香さんが冷凍睡眠から冷める1ヶ月前のことでした。当初は治療を受ける予定だったのですが、由里香さんが目覚めたことで治療を受けるのをやめたんです」
「どうして?」
「あなたに未来を託したいと主人はおっしゃっていました。自分はもう満足するほど長く生きた。だから、これから楽しく生きる由里香さんのサポートをすることを最後にしようと思うとおっしゃっていました。自分のせいで由里香さんをまた不自由にはさせたくなかったのでしょう」
「そう……なんですね」
私はどうしてこんなタイミングで目覚めてしまったのだろう。もし、眠りから覚める前に知ることができたのなら、タイミングをもう少し遅らせてもらうよう頼んだのに。なんて絶対不可能であろうことを思ってしまう。
一瞬、ネガティブな気持ちが私を襲うが、日向に言われた言葉を思い出す。
きっと、私が今するべきことはこうやって悔いてしまうことではない。
「ねえ、おばさん。日向の最後まで一緒にいてあげてください。私は最後にやるべきことを思い出しました」
彼女は私の言葉に優しく微笑み、「はい、分かりました」と頷いた。
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