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傘の下(1、傘)
ある日の佐和商店。
閉店間際。店の前にある傘立てに、榊は一本の和傘を見つけた。藍色の古い傘。自分や菫の物ではない。最近雨は降っておらず、客の忘れ物という可能性も低い。いつからあったのか。名前でも書いていないかと、柄を確かめ、開こうとして、首を傾げた。傘が開かない。
「壊れてんのか?」
悪戦苦闘していると、菫がやって来た。
「どうしたんですか?榊さん」
榊が説明すると、菫も首を傾げながら傘を受け取る。傘を下向きにして少し動かすと、パッと開いた。
「え、」
「こりゃ……」
藍色の傘の内には、艶やかな花柄模様が広がっていた。古い血のような赤で描かれたそれに、菫も榊も絶句する。それでも観察しようと、差すように持ち上げた菫の手から、榊は素早く傘を取り上げて閉じた。
「どうしました?」
「傘の下、すみちゃんの隣に知らない男が立ってた。これ、女性の傘だな。すみちゃんと相合い傘になんかさせるかよ」
言うと、榊は丁寧に畳んで傘を綺麗に纏める。そのまま、傘立てに戻した。菫はしばし傘を見つめていたが、そっと息を吐き出す。
「思い出の傘なんでしょうね」
「他所でやってくんねぇかな」
溜息をつき、榊は店へ戻って行く。菫ももう傘を見ず、後を追った。
その傘は梅雨の終わり頃には、傘立てから消えていた。
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