知らない町へ行こう

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 私は惨めな気持ちを抱えたまま、ホームをひとり彷徨いた。歩きながら、まあまあ人生なんてこんなものじゃないかと言い聞かせた。私だって今まで誰も傷つけずに、一度も意地悪せずに生きてきた訳じゃない。私は綺麗じゃない。それなのに他人の不幸や因果応報を望むなんて。    許すべきだ。水に流すべきだ。 「なんでそんなに馬鹿なの? そんなに馬鹿だと私以外に仲良くしてくれる子なんていないでしょ」 「裏切ったら殺すからね」  すぐさま彼女の言葉がよみがえる。「裏切ったら殺す」そんな言葉に、当時の私は身動きが取れなくなった。しかしそんなことを言っておきながら、結局彼女は卒業と共に私に興味をなくし、他の友達と良い高校に進学したのだ。私のことなどどうでも良いかのように。 「あんたと友達やめるわ。もう関わらないでね」    それはある意味良い知らせだったはずだが、思い出すと必ずどす黒い感情が沸き上がる。彼女からそんなことを切り出されたのが納得いかなかった。私の方が切り出すはずだったのだ。  いけない。もう忘れるべきだ。    頭の中で、同じところを行ったり来たり。     「仕事行きたくないな」    小さくため息をつく。じきに電車がやって来た。何時ものように乗り込むと、昨夜の寝不足が祟ってか、急に強い眠気に襲われた。私は空いている椅子に身体をねじ込むと、そのまま眠ってしまった。 「お客様、大丈夫ですか? 終点ですけど」  駅員の声で目を覚ました。辺りを見回すと、車内にはひとっこひとり座っておらず、私だけがポツンと取り残されていた。 「終点……と言いますと?」 「今、夕凪浜です」 「夕凪……?」  窓からホームを見る。標識には「夕凪浜駅」と書かれている。見覚えのない地名だ。どうやら電車を乗り間違えた挙げ句終点まで来てしまったらしい。 「やばい……」 「具合悪いとかじゃないですか?」 「いえ、それは大丈夫です」 「戻るならあと10分後に折り返しますけど」 「はあ」  戻るか、と思ったが、不思議と私は立ち上がり、ドアの手すりを掴んでいた。 「降ります。ご心配おかけしました」  そのままホームに降りてしまった。ホームからは海がよく見えた。きっとここは港町なのだろう。私はポケットからスマホを取り出すと、会社に体調不良で休むという旨の連絡をいれ、そのまま悠々と駅の外へ出た。時刻は午前9時を回ろうとしていた。
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