2人が本棚に入れています
本棚に追加
夕闇へ来たとき、思ったことがある。
キミに会えるんだったら、死んでもいいよ。でも、僕がここに来たのは、死ぬためじゃない。キミと帰るために来たんだ。彼女の手を強く握り返して、言った。
「嫌だ、言わない」
ぽかんとする彼女にこう続ける。
「キミが言うんだ、新村 晴」
「え」
「キミの名前だ。新しい村に、闇が晴れるの、晴だ」
「…新村 晴」
「僕はキミを救いにきた。夕闇の伝承は元々、生者を殺すものじゃない。死者を生き返らせるものなんだ」
彼女の身体を僕の方へ抱き寄せる。今度は絶対に離さない。
「僕の名前は、中村 正樹だ。覚えているか、新村 晴」
「ナカムラ、マサキ。中村 正樹。忘れるわけないよ。だって、わたしの、私の好きな人だもん」
「帰りたいと、強く望め。生きたいと、強く願え。そして、言うんだ、あの言葉を!」
帰りたい、生きたい、君の元へ、正樹くんのところへ。
「私を『攫って』、正樹くん!」
太陽と月の境目にできる薄明りの世界、夕闇。
片方は太陽へ、片方は月へと続く道を、僕たちは太陽に向かって歩いていた。
最初のコメントを投稿しよう!