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虫取りそっちのけだった。兄ちゃんが「一回だけだぞ」って言うから、俺は夢中で兄ちゃんに口付けた。
虫取りするはずだった林の中。
兄ちゃんは抵抗もせず、がっつく俺に落ち着けよと笑いながら受け入れてくれた。
「嵐、男好きなの?」
キスの合間に聞かれ、俺は首をかしげた。
「男っていうか……兄ちゃんが好き」
「……そっか」
苦笑いを浮かべ、兄ちゃんは背伸びをして俺の唇を舐めると、首に回した腕で耳たぶをやらしく触った。
「俺は……男が好きなんだ。男しか愛せない」
誘うような態度。だけどそれとは裏腹な哀しそうな瞳。とても辛そうな声と頼りない腕。こんなに男らしくて大人の体なのに……すごく頼りなく感じた。
「じゃあ……俺のこと好きになってよ」
一回だけなんて言わずに、ずっと俺のものになればいい。俺は兄ちゃんにこんな悲しい顔、させたりしないから。
──返事はもらえなかった。
だけど一つに繋がった。
一晩中抱いて、抱いて、泣き出す兄ちゃんの中に、何度も何度も果てた。あちこちを蚊に刺されカブトムシどころじゃなかったけど、尻からオレのものをトロトロと垂れ流す兄ちゃんは、やっぱりカブトムシをおびき出すゼリーみたいに俺を引き寄せて離そうとしなかった。
「兄ちゃん、好き……。ずっと会いたかった。ずっとこうしたかった。ずっと待ってた」
悲しそうに泣くだけの兄ちゃんは、俺の告白にうんともすんとも答えてくれなかったけど、キスもエッチもまったく拒まなかった。
東京で辛い恋をしていたのだろうか。上手くいかずここへ逃げ帰ってきたのだろうか。……俺に抱かれながら違う男の影を追っているのだろうか。
そうだとしても構わない。
「蘭真……」
悲しそうに泣く兄ちゃんを抱きしめて、俺はもう一度口付けた。
「俺のものになってよ……、ねぇ」
兄ちゃんは嗚咽を漏らしながら、俺を抱きしめ声を我慢して泣いた。
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