まだ間に合う!きっと間に合う!

1/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

まだ間に合う!きっと間に合う!

 八月二十三日。  少女と少年は、窓の外を見つめて並んでいた。 「夏が終わるわね」  どこかしんみりした声で少女が語る。 「今年もまた、何もできないまま終わるのかしら。私達の夏は。……青春を刻む夏は。夏休みだけしかできないことに、挑戦してくれる人がきっといると思っていたのに」 「そんなことない」  そんな少女の細い手に、少年は手を重ねた。彼女の心痛を慮るように。 「見ろ。去年とは違う。今年は感染症も落ち着いてきた。公園でも校庭でも遊んでいる子供達はたくさんいる。イベントも復活してきた。花火だって、あんなにたくさん上がっていたじゃないか。だからきっとまだ間に合う。まだ必ず、チャンスはある」 「そうかしら」 「そうだ。僕達を必要としてくれている人はたくさんいるはず。だから、もっと頑張らないといけない。この場所に籠って、ただ誰かを待っていればいい時代は終わったんだから」 「……そうね」  少年の言葉に、少女は頷く。二人は見つめ合い、ドアの外を出て廊下に向かった。  この狭い場所で、ただ待っていれば出番が来た、そんな時代は終わってしまった。ならば、やるべきことはひとつ。  夏が完全に終わってしまう、その前に。 「やりましょう」  少女はポケットに手を入れて、そして。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!