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まだ間に合う!きっと間に合う!
八月二十三日。
少女と少年は、窓の外を見つめて並んでいた。
「夏が終わるわね」
どこかしんみりした声で少女が語る。
「今年もまた、何もできないまま終わるのかしら。私達の夏は。……青春を刻む夏は。夏休みだけしかできないことに、挑戦してくれる人がきっといると思っていたのに」
「そんなことない」
そんな少女の細い手に、少年は手を重ねた。彼女の心痛を慮るように。
「見ろ。去年とは違う。今年は感染症も落ち着いてきた。公園でも校庭でも遊んでいる子供達はたくさんいる。イベントも復活してきた。花火だって、あんなにたくさん上がっていたじゃないか。だからきっとまだ間に合う。まだ必ず、チャンスはある」
「そうかしら」
「そうだ。僕達を必要としてくれている人はたくさんいるはず。だから、もっと頑張らないといけない。この場所に籠って、ただ誰かを待っていればいい時代は終わったんだから」
「……そうね」
少年の言葉に、少女は頷く。二人は見つめ合い、ドアの外を出て廊下に向かった。
この狭い場所で、ただ待っていれば出番が来た、そんな時代は終わってしまった。ならば、やるべきことはひとつ。
夏が完全に終わってしまう、その前に。
「やりましょう」
少女はポケットに手を入れて、そして。
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