0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
第1章
「誰かの弱みを握ったのなんて、人生で初めてだよ」
同じ学校の制服を着た彼女は、教室の窓の外に流れる小さな川の清流を見つめながら、意を決したように言い放った。
「――ブックスタンドのことを言いふらされたくなかったら、私と友達になって」
それは、彼女なりの精いっぱいの脅しのつもりなのだろうけど、僕はそのあまりにも可愛すぎる強請りのネタに、ただ鼻を鳴らして苦笑するしかなかった。
「せめて、目を合わせて話したらどう?」
僕が指摘すると、背中を向けていた彼女は、「だってぇ……」と元気なく言って、そのまま窓の端に移動して、揺れていたクリーム色のカーテンの内側に頭をくぐらせた。そのまま僕と向かい合ったけど、制服のブラウスの上の表情は、厚手のカーテンにくるくると包まれて何も読めなかった。
「うわっ! ほこりくさっ」
中で思いっきり息を吸い込んだのだろう。彼女は思いっ切り咳き込むと、がばりとカーテンを上げた。隠していた顔があらわになった。
「うげぇ……。どういうわけか、めっちゃチョークの粉の匂いがしたよ。もっとお日様の香りがするのかと思ってた」
彼女が涙目でぶんぶんと首を横に振る度に、艶やかなショートヘアーが揺れた。
陽の当たる窓辺に立つ彼女は、スラリと伸びた手足や色白な肌の色素も相まって、不思議な透明感をまとっていた。改めて顔をよく見ると、やはりというかなんというか、非常に整った顔立ちをしていた。銀色のヘアピンを前髪につけていて、窓辺の光が微妙に反射してまぶしかったけど、僕は目をそらしたくなかった。
話は一週間前にさかのぼる。
最初のコメントを投稿しよう!