薬局の魔女

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「それじゃ、行ってきまーす!」  溢れんばかりの元気を声に漲らせて少女が玄関を出ていく。  十七歳にして男性の平均身長以上の体躯となった彼女が、わずか三年前に末期癌で死の淵にあったと知る者は少ない。その奇跡的とすら言える復活についてマスコミが報じることはなく、彼女の治療に関与していた医師もみな一様に口を閉ざしていた。  それは彼女の父親の人生についても同様だ。  末期癌に侵され死を待つばかりだった己の娘を救うため藁にも縋るように東奔西走していた彼は、その移動中の事故死というあっけない最期を迎えることになったが、その悲劇は意外なほどにマスコミに取り上げられずただの交通事故のひとつとして流れて行ったのである。  そして、そういった不自然な流れは、それ故に突如として急流となり襲い掛かるのだ。  家を出て数十メートル、見通しの悪い交差点から一旦停止を無視して見計らったようにタイミング良く現れたワゴン車は微塵の遠慮もなく少女をはね飛ばした。  その身体は数メートルを飛んで地面に激突し、さらに数度跳ねてアスファルトに転がる。  跳ねられた少女はぴくりとも動かない。  ワゴン車から飛び降りる数名は男女織り交ぜて誰もが量販店で買ったと思しき揃いの目出し帽を被っている。  彼らは要領よくとは言えずとも、事前に指示されていたのかそれなりに手際よく倒れている少女になにかを嗅がせてからワゴン車の後部に放り込むとあっという()にその場を走り去った。  突然の事態に呆気に取られていた目撃者たちが、ここに来て慌てて通報し始めるが後の祭り。その場にはなんの痕跡も残されていなかった。
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