やる気が出る最高のお薬

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薬師院博士の言葉に勉は少しだけ目を輝かせたが、黒沼の剣幕がそれを情け容赦なく消し去った。黒沼は机をばんと叩き、 「そんな甘いことではダメなんです!」 と激高し始めた。 「この子は絶対にK中学に合格させるんです。薬師院博士もご存知でしょう、K中学ですよ。中高一貫で、国立トップのT大の合格者多数だ。生半可な成績ではまったくダメなんです。なのにやる気がなくて困っているんですよ。さあ、学業に利く薬はありませんか」 「うーん、いくら何でもそんな薬はないし、あったとしても不正ですな」 薬師院博士は真っ白な顎髭をいじりながら唸った。黒沼という男はだいぶ教育熱心なようだが、当の息子は置いてけぼりだ。薬で一時的にやる気を引き出すのは気の毒だと思い、薬師院博士は薬の提供を渋った。 だいたい、この手のお悩み相談はよく受けるが、薬で何でも解決できるわけがないのだ。ここはお引き取り願おうかと思ったところ、足をばたつかせながら俯いている勉の顔に、夏休み真っただ中の子どもとは思えないような暗い影が差しているのを見て、薬師院博士はもう一度頭を捻った。 「……そうだ。あれが使えるじゃないか」
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