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「お!ありますか、よい薬が!金はいくらでも出します」
黒沼の顔が喜色に染まる。それと正反対に、勉少年の顔はにわか雨が降る直前の空のようにすっかり曇ってしまった。
「お時間はありますか」
「もう少しで夏期講習に連れて行きますが、少しなら」
「結構。大した時間は取らせません」
薬師院博士はすぐに薬を取りに行き、その間に助手にお茶を出させた。薬師院博士が部屋に戻ると、黒沼は喉が渇いていたのか、お茶をすっかり飲み干していた。
薬師院博士は黒沼に薬の小瓶を手渡した。
「これを飲み物に混ぜて一日一回飲ませてください」
「わかりました、一回ですね。ところで、効能は?」
「やる気が湧いてくる薬です」
「なるほど。成績がいきなり上がるとは限らないが、やる気になるだけでも変わるかもしれない」
黒沼は「さあ、さっそく飲むんだ」と、勉の手を引いて小躍りしながら退出した。
「ふむ。もうひと踏ん張りだ、少年」
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