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「俺が未練があるのは二つだけ。……もうちょい子供として、夏の遊びがしたかったなっちゅうことと……大事な弟を今でも苦しめてしもうてるってことや。オカンとオトンはあれで強い人やったから立ち直ってくれたけど、未だに孝仁はな……。繊細で、どっか似とる忍を見るたび、切ない顔しとるから。だから……孝仁には、俺の姿が見えへんのやろな」
それは父が、まだどこかで伯父さんのことを拒絶してしまっているということなのだろうか。子供のまま、大人になれなかった伯父さんのことを。助けられなかった、大好きなお兄ちゃんのことを。
お父さんだってまだ小学校三年生だったのだ。自分のせいだと責めても仕方ないことくらい、本人だって本当はわかっているだろうに。
「……じゃあ」
この伯父さんの奔放ぶりには、迷惑させられることも少なくない。
でもけして、嫌いじゃないのだ。この人は物心ついた時から僕にとって――伯父さんというより、面白いお兄ちゃんみたいな人であるからこそ。
「じゃあ、伯父さんが。今天国で楽しくやってるってわかったら、お父さんも……笑えるようになるかな。伯父さんが亡くなった、夏の終わりでも」
「え」
孝行さんが目を見開く。汗が目に入るくらい暑い今日。でも僕は、しっかりリュックサックに水筒を入れてきている。
がっつり水分補給したら、チャレンジしてみようか。今日はお父さんも出かけていていないからこそ。
「蝉取り、やりたいんだろ。一緒にやろう。……最近少なくなってきたミンミンゼミ、お父さんに見せてやろうぜ。伯父さんと僕で、一緒に捕まえたんだって」
なお。
虫を捕まえるだけなら素手でできても、入れておくには籠がいる。僕がそれに気づくのは、ミンミンゼミを捕まえたあとになってからのこと。
虫を手で持ったまま家に帰って、お母さんに叱られるのはこの十五分後。そして。
「もう、伯父さんったら!忍と一緒にふざけてばっかり!あの人そっくりだわ!!」
お母さんの言葉についつい噴き出してしまうのは、そのさらに二分後のことなのだった。
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