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僕の伯父さん、孝行さんが亡くなったのは、丁度今くらいの時期だったと聞いている。
二つ年下の弟である僕のお父さんと一緒に蝉取りに行った帰り。車に撥ねられて、そのまま帰らぬ人となってしまったらしい。
ともなれば、車に恐怖心があったり、自分を轢き殺した人間(あとで逮捕されたが、ようはひき逃げだったという)に恨みがあったり、夏と言う季節が嫌いになったりしそうなものである。
ところが十一歳だった彼は、そういう負の感情の一切をどこかに置いてきてしまったらしい。
その代わり、僕が小学校一年生になったあたりから、夏になるたび僕の家にきてちょっかいをかけるようになったのだが。ちなみに、彼の姿は僕と母さんにしか見えていない。何故か、父さんには一切伯父さんの姿がわからないという。
「ていうか、僕は常々疑問なんだけど」
鍵をかけていても関係なく部屋に入り込んでくる幽霊を、僕は睨みつけながら言う。
「普通、オバケってお盆の時期に来て、すぐ帰ってくもんじゃないの?……伯父さん、毎年七月の頭くらいからうちに来てない?でもって、帰るの遅くない?」
「気にせんでええよ!」
「いや気にするわ!そしてことあるごとに僕につきまとってぎゃーぎゃー言うのはどういうことなわけ!?父さんには何故か見えないし。実は地縛霊になってますとか言うんじゃないよね!?」
「地縛霊やったら、天国に帰ることもできひんって。俺が轢かれた場所でずーっと蹲ってると思うで?この家に来ることもできんとちゃう?」
そんな僕の言葉などなんのその。涼しい顔で、彼は窓の方を見る。
トドメが。
「例えば、この家の前の道路とかな。十二年くらい前に酔っ払いが轢かれたっちゅうの知らん?でもって結構長らくトラックに引きずられてもうてなあ。かなーりズタボロで苦しい思いをして死んだもんやから、今も体のあっちこっちがこの家の前に散らばってて時々……あ、いや、なんでもあらへんわ。忍には見えてへんっちゅう話やしな」
「時々なに!?そこまで言われたら逆に気になるんですけど!?そして今でも幽霊散らばってんの!?え、うちの前に地縛霊いるの!?ねえ!?」
「気にしない気にしない。見えんならいないも同然やろー」
「あんたのせいで気になるんだよ!」
おかしい。
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