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一体、夏の遊びといっても何をする気なんだろう。彼引きずられて行ったのは近所の公園だった。
暑いからか、よく晴れているのに人気は少ない。涼しい時期には人気のブランコも、日当たりのいいベンチも、滑り台も誰もいない。まあ、触ったら火傷する心配があるくらい暑いので仕方ないのかもしれないが。
「鬼ごっことか言わないでよ、伯父さん。伯父さんの姿、僕にしか見えないんだから。僕が不審者になっちゃう」
「言わへんって」
僕が汗をぬぐいながら告げると、彼はほら、と公園の中心の木を指さしたのだ。
「蝉取りがしたいんや、自分と二人で!さっきから、ええ声で鳴いてるのが聞こえるやろ?」
確かに、公園は蝉の鳴き声でいっぱいだった。じじじじじじじ、という鳴き声に混じって、時折ミーンミーン、というもう一つの鳴き声がする。前者がアブラゼミ、後者がミンミンゼミだろう。そういえば、お父さんの実家でもよく蝉が鳴いていた。お父さんは――兄が亡くなったからだろう、僕が蝉取りをしたいと言うと、いつも渋い顔でストップをかけてきたのだが。
「あんた、蝉取りしてて車に轢かれたんじゃないの?蝉取りが嫌になったりとかしてないの?」
僕がストレートに尋ねると、まさか、と彼は肩をすくめた。
「撥ねられたのは、完全に俺の不注意や。車が来てるかどうか確認せんと、道路に飛び出してしもうたん。蝉のせいやないし、なんなら車のドライバーのせいでもない。轢き逃げは腹立つけど、だからって恨むようなことはあらへん。俺も悪いと思ってるし、逮捕されたあとは泣いて反省してくれとったしな」
「お父さんは、そうは思ってないみたいだけど。……伯父さんが亡くなってから、夏休みに外で遊ぶこと自体ほとんどなくなったって言ってたし」
「知っとる。……ほんまに、孝仁には、気の毒なことしてしもうたと思っとるわ」
孝仁、とういうのがお父さんの名前だ。
みんみんみん、と鳴き続ける蝉の声の奥。伯父さんの、少し切なそうな言葉が響いた。
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