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「私のことを覚えているか?」
私は名を名乗った。同級生の顔をした男が目をぱちぱちさせている。
「……はあ?」
私は男の右肩を足で思い切り踏みつけた。
「ぎゃっ!」
男は同級生の顔で、声で身体をよじった。
「あの頃、お前にはよく虐められたなあ」
母子家庭で貧しかった私は、それはみすぼらしい子どもだった。母は優しく、私は母との生活に不満はなかったが、それを揶揄する輩がいた。その輩を煽動していたのが、
この男だ——
「すっかり忘れていたよ。なかなか壮絶な虐めだったな」
「な、なんのことだ、ぎゃあっ」
子どもというのは残酷だ。加減を知らない。私は同級生たちから暴力を受け、物を盗まれ、服を脱がされ、真冬に裸で体育館の倉庫に閉じ込められ、肺炎で死にかけた。さすがにやり過ぎだと今まで見て見ぬフリをしてきた学校が動いたが後の祭りで、私は不登校になった。母は貧しいことを私に謝った。そんなことではない。貧しいことは何も悪くないのに。そんなことで謝っている母が嫌だった。
気づくと私は男の右肩を踏み抜いており、男の右腕はダラリと力をなくしていた。木の床に黒い染みが広がっていて、私の白い靴下は赤く染まっていた。
「あがっ……ががっ」
男は白目を剥いて痙攣していた。そこにはもう同級生の顔はなかった。
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