服薬介助

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          ◯  酸っぱくて甘ったるい匂いがする。それが鼻の奥を抜け、口の方へと下がってくると、舌の上にまとわりついた。その瞬間胃が痙攣し、全身を震わせながら腹の中のものを思い切り吐き出した。苦しくて息を吸い込むと、またあの匂いが喉の奥にまで絡みついてきて、再び嘔吐する。その繰り返しで、目からは自然と涙が出た。 「何汚してんだよせっかくの食事が!!」  涙で曇った視界に火花が飛び散る。鼻の奥に今度は鉄のような匂いが溢れた。 「やめれくらはぃ」  目の前の男が何かを振り上げるのが微かに見えて、声を出したがあまりうまく喋れなかった。 「何言ってるのかわかんねえよ!」  音が水の中に入った時のように遠くなる。目の前の景色が大きく傾き、全身に衝撃が走る。湿った木の匂いがする。それがまた嘔気を誘い、ごぼごぼと吐瀉物が眼前に広がっていく。  目を開けているのに視界がどんどん狭くなっていくことに恐怖を感じていた。ふと見上げた先に見たものは壁掛けの時計で、針は一時半になる少し前を指していた。
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