ねえ、久しぶり。

1/5
前へ
/5ページ
次へ
 あと少し、あとひと越え努力すれば。  もっと昇れるのに頑張らない。  お前らは、そういう人間の集まりだ。  入学早々、担任は皆の前でそう言った。  進学校だったから、“今後はこのままでは通用しない”ということを伝えたかったのかもしれない。  けれど私は焦りも感じず、ただただ納得したものである。  県内で“中の下”のレベルに位置する高校は、正に担任が言ったような人間が集まりそうな場所だった。  もっとレベルの高い高校に受かるのは、そこからさらに努力できる子たちだ。  取り敢えず部活に入って、青春の真似事をした。  学業において、さほど苦労せず上位にいられることは唯一の誇りだった。  ちっぽけなプライドを満たせるのは、ここが“中の下”だから。  上には上がいる。途方もないくらい。  躍起になって流行を追っていたのは、今思えば何も持たない自分を飾り立てるためだったかもしれない。  半年、一年。中身のない時間は風のように過ぎる。  進路なんて、どこか他人事だった二年生の夏休み。  膨大な量の宿題と休みの残り日数は、もうとっくに釣り合いが取れなくなっている。  片手間にテレビをつけたのは、そんな日だった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加