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3.修羅場
トウヤとはモデルの仕事を始めた二年前からの付き合いだ。当時、トウヤもモデルになりたての二十歳で。年の近い私達が意気投合するのに時間は掛からなかったし、身体の関係になるのも早かった。
お互いに芸能人だから、外でのデートも大っぴらには出来ないし、大抵はお互いの部屋で会うだけのつまらない関係だった。
トウヤが住んでいるのは、そこそこオシャレな造りのマンションで。そんなに高級な所ではないけれど、二年目のモデルが住むには上々な物件だ。
「まだ十九時十分か。ちょっと早く着きすぎたけど、ま、いっか」
もちろん私はトウヤの部屋の合い鍵を持っている。トウヤも私の部屋の合い鍵を持っている。いつもは時間を守る私だけど、今日はうちのマネージャーが泣き出したせいで仕事が早く終わったのよね。何なのあいつ、情緒不安定なんじゃないの?
「トウヤ―、来たわよー」
玄関で靴を脱いでいたら、そこにはあるはずのないの華奢なレディースサンダルの先客があった。
「ちょっと……誰か来てるわけ?」
トウヤのお姉さん? それとも親戚の子?
リビングに続く扉を開けたら、そこには半裸の男女が二人居た。
「あ!? リリ!? え!? もう二十時!!??」
トウヤはパンツ一丁であたふたしながらソファから転げ落ちた。
「あ、あ、あ、私たち、何もしてません! 具合が悪くなっちゃってトウヤさんに介抱してもらってただけです!」
何と、女の方はミルルだった。
「あんた……! 人の男に手出したわね!! そういえばあんた達今日は私より早く上がったっけね!」
私は持っていたハンドバッグを床に叩きつけると、ミルルの髪をひっつかんで床に引き倒した。
「おい、やめろよリリ! 暴力反対!!」
起き上がったトウヤが私を抑え込みに来る。
「うるさい浮気男! あんたは黙って引っ込んでなさいよ!!」
すると、床に転がっていたミルルが鬼みたいな形相でこちらに向かって来た。
「引っ込んでるのはあんたよクソババア! トウヤさんはあんたみたいなババアの肌にはもう飽きたってよ!」
私はミルルの言葉に凍り付いた。
「ば、ババアですって!? あんたみたいな小娘にそんな事言われたくないわよ!」
「うっさい! 性悪ワガママクソ女! とにかく、トウヤさんはあんたにはもう飽きてんのよ! さっさと帰れ!」
すると、さっきまで半分おろおろしていたトウヤまでこう責め立てて来た。
「悪いな、リリ。俺、お前みたいな性格悪い女無理。ミルルみたいな可愛い女の方が好みなんだ。別れよう。さようなら」
そう言うと、私はぎゅうぎゅうとトウヤに押されて部屋の外へと追い出された。
「あ、忘れもんだぞ」
ハンドバッグも雑に投げつけられた。
「何なのよ、クソ共が……」
もう、今夜は最悪だ。早く家に帰って天国に行って美味しい物でも食べよう。
その時だ、スマホが鳴った。どこからだろう。知らない番号だ。でも、業界のツテからの電話かもしれないから、一応出てみる。
「もしもし?」
「あ、こちらモデルのリリさんの携帯電話でお間違いないですか? こちら〇〇警察署のものですが……」
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