発症

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発症

飯田橋高校3年A組のクラス内は今日もさざなみのような私語が聞こえてくる。 中には受験を控えて朝から机にかじりついて参考書を読みふけっている生徒もいるけれど、受験生という緊迫した雰囲気はそれほど感じられない教室だった。 「薫、昨日のテレビ見たぁ?」 間延びした声で私に話しかけてきたのは高校に入学してから仲良くなった長岡ユカリだ。 ユカリは今どき風の少し派手なタイプで、誰とでもすぐに仲良くなれる性格をしている。 ユカリの茶髪が窓から差し込む朝日でキラキラと輝いていた。 「見たよ。面白かったよね」 毎週かかさずに見ているバライティ番組の話で盛り上がっていたとき、教室前方の戸が開いて加藤圭太が登校してきた。 圭太は私とユカリの姿を認めるとすぐに近づいてくる。 「はよー」 挨拶しながらあくびをして目に涙を浮かべている。 「おはよう。どうせ昨日もゲームで徹夜してたんでしょう?」 高校卒業後は大学へ進学して、ゆくゆくは父親と同じ会社に入ると決めている圭太は、どこか緊張感の欠けるふわふわとした雰囲気を持っている。 「なんでかわったんだ?」
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