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不安と期待が入り混じりその場に立っていた。
大丈夫。やるべきことはやった。
あれからも毎日かかさず机に向かったし、各教科、基礎から応用まで隅々まで見直した。
とにかく今の自分が全力で取り組んだらどのくらいの位置になるのか確かめたかった。
試験の後は、成績上位者20名のみ点数と氏名が廊下に貼り出される。
すでに人だかりが出来ている。
少しずつ前に進み何とか見える位置までやって来た。
下位から名前を追っていく。
20位から11位までは名前はない。
10、9、8、7…の横に津崎陽の名があった。
さすが陽だ。終わった後、あまり自信がないと言っていたのに10位以内に入っている。
さらに順位を追っていく。
6、5、4、3…
ー 3位 木崎 悠 ー
確かにそこに自分の名があった。
想像以上の結果だった。
「悠、やったじゃん!」
「うん!陽もすごいよ!」
オメガの自分でも努力すればアルファと肩を並べられる。大きな自信になった。
再び貼り紙に目を戻す。
2位はアルファ特進クラスの名前、1位は…特進クラスの者ではない。普通科のベータの者だろうか。
ー1位 篠原 真紘 ー
だが次の瞬間、その者がオメガなのだとすぐにわかった。
「篠すげー1位じゃん!」
「アルファに勝つなんてマジですごい!」
次々と称賛の声を掛けられているその人物の首には黒い首輪がついていたからだ。
番は発情期中のオメガのうなじをアルファが噛むことで成立する。
意中の相手ではないアルファから強制的に番にさせられないように首輪やチョーカーをするオメガもいる。
確かにそれは自衛になるが、それと同時に自分はオメガだと周囲に知らしめることになる。
自分にはとても出来ないことだった。
篠と呼ばれたその人物は小柄で目が大きく中性的な印象でまるで女性のような綺麗な顔立ちをしていた。
染めているのだろうか、陽よりも明るい茶色の髪がまたよく似合っている。
「別に。大したことない」
周囲の囃し立てる声も意に介さず颯爽とその場から去っていく。
劣等感だらけの自分とは違い、堂々として凛としているその姿に衝撃を覚えた。
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