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床に触れている背中は冷んやりとしているのに陽が触れていくところはじんわりと温かくなっていく。その温度差にまた体がびくりと震えた。
「ちゅっ…ちゅっ」
音を立てながら胸や脇腹を愛撫されていく。
おへその上辺りを舐められて思わず体がしなった。
舌を這わせたまま陽の頭がだんだんと下へとおりていく。
「んんっ…」
声を抑えられない。
甘い痺れが広がって体がよじるのを止められなかった。
とうとう下の服を脱がそうと陽の手が伸びる。
それとほぼ同時にー
「っくしょっん!」
くしゃみが…出た。
お互いの動きが止まる。
「ぷっ…ふふふ。もうなんだよーそれー」
沈黙を破って陽が吹き出した。
俺のお腹の上で体を震わせて笑っている。
(良かった…いつもの陽だ)
安堵している自分がいた。
「ていうか俺のせいだよな。風邪ひくよな」
陽は俺の体をそっと起こすと床に落ちたタオルを拾った。そのまま俺の頭に被せてわしゃわしゃと髪を拭く。
「ごめん…今の忘れて」
そう耳元で言われたけれどタオルが目にかかって陽の顔がよく見えなかった。
電話の相手はやはり母親で連絡すると案の定こっぴどく怒られた。
陽は今風呂に入っていてリビングには誰もいない。大きなソファに一人横になる。
忘れてと言われて忘れられる訳がなかった。
あのまま俺がくしゃみをしていなかったらどうなっていたのだろう。
陽に触れられた場所がまだ疼く。
あんな陽は知らない。
今まで一度も見たことがなかった。
視線や息遣いを思い出しただけで頬が熱くなる。
ただの幼馴染にあんなことするだろうか。
しかも欲情って一体どういう…
陽が自分のことを好いてくれていることは分かっていたがそれは幼馴染としての好きであって自分が思う好きとは違うと思っていた。
でももしかしたら…
陽も同じ気持ちなのだろうか?
淡い期待が胸に広がっていく。
そうだとしたらものすごく嬉しい。
だがもし陽も自分と一緒にいたいと思ってくれているなら、なおさら本当のことを言わなくてはならない。
自分が欠陥品のオメガだということをー。
自分ではアルファの優秀な遺伝子を後世に残してあげることは出来ない。
陽に何も与えてあげられない。
もらってばかりのくせに自分からは何もしてあげられないのだ。
「あーあっつ。長風呂しすぎた」
陽がリビングに戻ってきた。首にタオルをかけ上下スウェット姿の体からはうっすら湯気が出ていた。
「あっ、そういえばアイスあったな。悠も食べる?」
「うん、食べる」
ソファに二人並んで座りバニラアイスを食べる。冷たくて甘いバニラビーンズの香りが口に広がった。
ちらりと陽をみる。
さっきのは一体どういうつもりだったのか本当は聞きたかった。
アルファとオメガが結ばれるということはすなわち番になるということだ。
アルファはいくつでも番を作ることが可能だがオメガは一度アルファと番になると一生その関係を解消出来ない。
優しい陽はきっと番になれば自分としか関係をもたなくなるだろう。
アルファとしての陽の人生を自分なんかが縛ってもいいのだろうかー。
「なぁ、悠」
ふと陽が口を開いた。
「なに?」
「さっきのさ…忘れてって言ったんだけど、その…」
「うん?」
どうしたのだろう。
ずいぶんと歯切れが悪い。
「い、嫌じゃなかった?」
陽はスプーンを咥えたまま顔をそむけている。
よく見ると耳まで真っ赤だ。
「うん。嫌じゃなかったよ」
つられてこっちまで真っ赤になる。
「なら良かった」
アイスを食べ終わるまで陽はそっぽを向いたままだった。
そのあとは二人で一緒にテレビを見て程なくして陽はソファでそのまま寝てしまった。
勝手に申し訳ないと思いつつもこのままでは風邪をひいてしまうので、陽の部屋から薄手の毛布を持ってきて掛けてやった。
スースーと寝息をたてる頭をそっと撫でる。
ねえ、陽
陽も俺と同じ気持ちなのかな?
本当の俺を知ってもずっとそばにいてくれる?
そう願いながらゆっくりと瞼をとじた。
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