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まさかこんなに早くチャンスがやってくるとは思っていなかった。
今、目の前の席に篠原真紘が座っているー。
過ごしやすい日が多くなり、秋の深まりを感じていたとある放課後、各クラスから選出された文化祭の実行委員が空き教室に集められていた。
去年は立候補者がいてすんなり決まったのに今年はなかなか決まらなかった。やむ無くくじ引きとなった結果、驚異のくじ運の悪さで実行委員の座を射止めてしまったのだった。
文化祭当日にはギリギリ被らないとはいえ次の発情期もちょうどその辺りで体調面での不安もある。
だがそれよりも今までこんな大役を引き受けたことなどなく、一人でやっていけるのか、陽がいなくても大丈夫なのかという不安の方が大きかった。
でも今目の前にあの篠原真紘がいる。
接点がなかなか持てなかった真紘と話せる絶好の機会だ。
ここは頭を切り替えて前向きに捉えることにした。
「1組の篠原真紘です。初めての経験ですが宜しくお願いします」
やや高めの通る声で真紘が挨拶をした。
「2組の木崎悠です。俺も実行委員は初めてです。宜しくお願いします」
真紘以外のクラスの人たちはもちろん名前も知らないし、上級生や下級生もいる。そんな中で挨拶するだけで人見知りには一苦労だった。
メンバーの挨拶を終えると代表の生徒から大まかな説明があったあと、各学年ごとに集まって役割分担を決めることになった。
実行委員の仕事は想像以上に多岐にわたるようだった。
パンフレットの作成、予算の管理、物品の請求、各部門のスケジュール調整に校内の装飾と当日の案内など、細かいものを含めるとこれ以外にもまだまだ仕事内容はあるようだった。
しかも1組と2組、3組と4組でペアで進めるようにとの指示があり真紘と一緒に主にパンフレットの作成を担当することになった。
「改めて篠原真紘です。宜しく」
「木崎悠です。宜しくお願いします」
二人で机をつけて向かい合って座り挨拶をした。真紘は柔らかく微笑んだ。笑うと本当に少女のようでドキッとする。
その首には今日も黒い首輪がついていた。
この前見かけた時はクールな印象を受けたが今の真紘からはそんな様子は感じ取れない。
人付き合いが苦手な自分でも仲良くなれそうな気がした。
(オメガのことは気になるけどいきなり聞くのはダメだよね)
さっと首輪から目を逸らし去年のパンフレットに目を通す。基本的なフォーマットは去年のものがそのまま使えそうだった。
「木崎くんてさ」
ふと名前を呼ばれて顔を上げた。
「いつもアルファの津崎陽と一緒にいるよね?」
先ほどとは別人のような突き刺すような冷たい目をした真紘がそこにいた。
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