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じっくり話してみると真紘はとても話しやすかった。
段取り良く進行してくれるけれど、決して独りよがりにならず、俺の意見もきちんと聞いてくれる。要所要所の判断も的確だし、納得のいくものだった。
首輪がついていなければ誰もがアルファだと思って疑わないだろうと思った。
「あ、もうこんな時間だね」
真紘が教室の時計を見て言った。
打合せ開始から二時間程が経過しており、気づけば教室に残っているのは俺と真紘だけになっていた。
「初回にしては結構進んだし今日はもう帰ろっか」
「うん。そうだね」
机上を片付けて二人で帰り支度をしていると思い出したように真紘が言った。
「あ、発情期なんだけど僕は薬で完全に抑えられてるから気にせず仕事振ってくれて構わないからね」
見間違いかもしれないけれど、そう言った真紘の顔がほんの一瞬だけ陰った気がした。
「あの、篠原くん」
咄嗟に俺も本当のことを伝えなきゃいけないと思った。
「俺も同じ…だから」
「え?同じって?」
真紘が怪訝そうな顔をする。
俺は制服のズボンのポケットから発情期の薬を取り出して机の上に置いた。
「え…この薬って」
「ごめん、黙ってて。俺もオメガなんだ」
「そうだったの?」
「うん。周りには隠してるんだけど」
するとガタンと音を立てて真紘は椅子から立ち上がると俺の手を取った。
「嬉しい!この学年で男のオメガは僕一人だけだと思ってたから」
予想外の反応だった。
真紘の頬は少し紅潮していて嬉しさで興奮しているのがわかる。
「実はずっと篠原くんと話してみたいなって思ってて。頭もいいし、俺と違ってオメガなのに堂々としてるし。どうしたらそんなふうになれるのか聞いてみたかったんだ」
うんうんと頷きながら真紘はまたゆっくりと椅子に座った。
「僕はね、この世界のヒエラルキーのトップはオメガだと思ってるわけ」
これはまたすごい考え方だ。
興奮した様子で真紘は続けた。
「だって、エリート集団てもてはやされてるクソアルファどもが僕たちのフェロモンの前では理性を失うんだよ。こんなに面白いことはないと思わない?」
「うーん。そう、かな…?」
まあ確かに真紘のいうことも一理ある気もするが幼いころから植え付けられてきたアルファがこの世界の頂点だという考えはなかなか変えられない。
「ごめんね。今のは少し極論すぎるかもしれないけど」
俺の様子を見て真紘は少し落ち着きを取り戻したようだ。
「でも、僕たちは見た目は何も変わらないのに突然15歳になったら3つに区別されて。今までの努力とか、苦労とか性別によって認められなくなるなんておかしいじゃない?」
俺は黙って頷いた。
「だから木崎くんも、オメガを隠してるってことはオメガに対して後ろ向きな思いがあるのかもしれないけど、僕たちが卑屈になることはないんだよ。発情期だって抑制剤で抑えられるわけだし、オメガだから他の性より劣ってるなんてこと絶対にないんだから」
最後の言葉は真紘自身にも言い聞かせているように聞こえた。
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