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13
約束の時間通りに陽は家にやって来た。
まともに顔を見て話すのは久しぶりで、一瞬目が合ったがお互いすぐに逸らしてしまう。
「先に俺の部屋行ってて」
気まずい空気に耐えられず、とにかく陽に自分の部屋へ行くよう促した。
少し遅れて部屋の中に入ると陽はベッドを背にして床に座っていた。
「これ、母さんから」
「ありがと」
ミニテーブルの上に飲み物と焼き菓子を置くと陽の隣に少し離れて座った。
今、陽はどんな顔をしているのだろう。
怖くてまだ横を向くことが出来ない。
一口飲み物を口にしたけれど味がほとんどわからなかった。
「そういえば、おばさんたちは?」
陽から話しかけてくると思わず少しむせそうになった。
「二人で旅行に行ってる。だから明日まで帰ってこないよ」
先日、両親に陽と正式に番になりたいと告げた。だから陽と二人だけで話す時間がほしいと頼んだ。父も母も賛同してくれたけど一つだけ条件を出された。
俺の体のこともあるし何よりまだ俺も陽も未成年だ。俺の性が本当はオメガであること、オメガでも子供を授かれない体質であることを陽の両親にも説明して納得してもらってからでないと許可は出せないと言われた。
おじさんとおばさんたちの許しが出なかったらどうしようと心配したがそれは杞憂に終わった。両親に話した数日後には快い返事がもらえた。
「うちの両親も今日から突然二人で旅行に行くって言って今いないんだけど…これって偶然?」
陽は何も知らされていないはずだ。
怪訝そうに首をかしげている。
今が話を切り出すチャンスな気がした。
「ぐっ…偶然じゃないよ!」
力んでしまって思いのほか大きい声になってしまった。陽は驚いて目を見開いている。
「俺が陽と二人きりにしてほしいって頼んだんだ。まさか旅行に行くとは思わなかったけど」
「そう…なんだ」
「この前はごめん。勝手に泣いたりして…」
陽の方に向き直って頭を下げた。
「悠は悪くないよ。俺がラットなんて起こすから…傷つけて本当にごめん」
陽を見ると今にも泣いてしまいそうだった。
好きな人に、大切な人に、こんな顔させていいわけない。
「違うよ!」
思わず身を乗り出していた。
「陽はその…最後までしてこなかったよ。俺のこと大事にしてくれた」
陽は先ほどよりももっと驚いているようだった。
「え…そうなの?俺てっきり悠のこと…」
そこまで言うと陽は「はぁー」と大きな息を吐いて両手で顔を覆った。
「良かった。俺、悠の返事もちゃんと聞かないうちに暴走したんだと思ってたから。でも怖い思いさせたし嫌だったよな」
先ほどまで張り詰めていた空気が少し緩んだのを感じた。
どれだけ不安にさせていたのだろう。
陽の肩が微かに震えているように見えた。
目を見てちゃんと言いたくて顔を覆っている陽の手をそっととる。陽の目は潤んで少し赤くなっている。
「怖くなかったし、嫌じゃなかったよ」
陽の手の上に自分の手を重ねた。
「俺、陽に言わなきゃいけないことがあるんだ」
もう逃げない。
もう陽に不安な思いさせないよ。
真っ直ぐ陽の目を見つめた。
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