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境内の奥にあるベンチに座り、陽からもらったりんご飴をかじる。水飴と爽やかなりんごの風味が合わさって口の中に広がった。何となく去年よりも甘い気がするのは気のせいだろうか。 隣に座る陽に目をやると淡々とスマホを操作している。どうやら意識しているのは自分だけのようだった。 この前のキスはオメガの匂いにアルファである陽が反応してしまっただけなのだろう。 それに発情(ヒート)状態にある自分に抑制剤を飲ませる目的もあったはずだ。 頭では分かってはいるけれど、ずっと好きだった陽とキスが出来て嬉しくないはずがなかった。 こんな時だけオメガで良かったと思う自分がいる。なんて浅ましいのだろうと思った。 「そろそろだな」 りんご飴を食べ終わると陽がスマホの画面を見ながら呟いた。 もうすぐ花火の時間だった。 神社の裏手を抜けて近くの河川敷まで歩く。 湿気を含む夏の夜風が頬を撫でた。 人気の少ない場所を見つけてゆっくりと腰をおろすと、ちょうど赤い花火が夜空に咲いた。 陽は両手を後ろについて夜空を見上げている。 俺はその横に膝をかかえて座った。 ドンドンと大きな音を立てて次々と花火が上がっていく。いろとりどりの光が頬を照らした。 ふと陽と初めて花火を見た日のことを思い出す。 俺は耳と体を貫くような爆音が恐くて、花火はろくに見れず母親の後ろに隠れてばかりいた。 「大丈夫!こっ、恐くないから」 そう言って手を握ってくれた陽もよく見ると肩を震わせていて、強がっている様子が何だかおかしくて気づくと恐怖心は消えていた。 「ぷっ…」 思い出していたら思わず声が漏れた。 「お、ようやく元気になった?」 気づくと花火を見ていた陽がこちらを向いている。 「あれからずっと元気なかっただろ?」 「えっ」 そこまで顔に出ているとは思わなかったので思わず声が出た。 「やっぱり悠は笑ってるほうがいい」 陽は優しく微笑むと再び夜空を見上げて続けた。 「悠がオメガでも何でも俺は悠とずっと一緒にいたいと思ってる。その…大変な時は助けるからさ」 どうしてこの人はいつも俺が望む言葉を、欲しい言葉をくれるのだろう。 「だから…」 陽と目が合う。 「これからも俺の隣でずっと笑っててよ」 その瞳があまりに優しくて涙が溢れるのを止められなかった。 「悠は相変わらず泣き虫だな」 陽はそう言って笑うと小さい子を慰めるように 俺の頭をくしゃりとなぜた。 「うっ…うぅっ…」 声を出して泣いた。 泣き声を掻き消すように黄色い花火が夜空に開いて儚く散った。 陽、ありがとう。 オメガの俺を受け入れてくれて。 本当のことを打ち明けるまでもう少しだけそばにいてもいいかな。 花火が終わるまで涙は止まらなかった。 陽はその間黙って肩を抱き寄せてくれていた。 花火が終わると家路を急ぐ人で道がごった返していた。 「うわっ」 人波に流されそうになると陽がすかさず手を掴んだ。 「ほら、危ない」 俺たちは子供の頃みたいに手を繋いで帰った。 ※ここまでが第一章となります。 第二章以降も引き続きよろしくお願いします。
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