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本のページをめくる音と筆記音が静かに響く。
放課後、俺は一人学校の図書室に来ていた。
もうすぐ中間テストがあるからだ。
教室を出る時、陽は隣の席で気持ち良さそうに寝ていたのでここにいることは告げていない。
残暑も過ぎ去り体調もすっかり落ち着いた。
初めての発情は肉体的にも精神的にも応えたが陽がいてくれたおかげで何とか乗り切ることが出来た。
副作用があまりにひどかったので定期検診の時に薬を変えてもらった。
発情期抑制剤は数種類存在するが、どれも女性のオメガを対象として作られたものが多く、男でオメガである自分は一つずつ相性のいいものを試していくしかないようだった。
第二の性が発見されてから、もうずいぶん経つというのに抑制剤の開発はまたまだ発展途上なことに驚いた。
また自分のようなオメガは発情の周期が安定しないものも多いらしく体調の変化には十分気をつけるようにと帰り際に医師に念を押された。
まだ陽には本当のことを打ち明けられていない。
でも陽が受け入れてくれたあの夏祭りの夜から、陽のそばにいる間は隣にいても恥ずかしくない自分でいたい。もっと自信をつけて自分自身を誇れるようになりたいと強く思うようになった。
だからまずは間近に迫っている中間テストで結果を残したかった。
もともと本や図鑑を読むのが好きで勉強も嫌いではなかった。
昔から要領は良くなかったが真面目にコツコツと積み重ねれば結果が目に見えてついてくるので机に向かうのは好きだった。
今の成績は中の上くらいといったところだが、オメガは社会に出ると不利な扱いを受けることが多い。
そのためにも少しでも自分の知識を高めておきたいと思ったのだ。
それに唯一、小さい頃から勉強に関してだけは陽が頼ってくれる。
でも陽はもともと要領がいいので少し教えただけですぐに本質を理解してしまう。きっとそれはアルファである所以だろう。
それでも陽に頼ってもらえると、とても嬉しかった。
「ふー」
数学の問題を一通り解いたところで小さく息を吐いた。
まだもう少しだけやっていこうと新たに英語の教科書を開いたところで、突然後ろから両頬を指で押された。
振り向かなくてもわかる。
こんなことをしてくるのは一人しかいない。
「陽、起きたの?」
振り向くと少し拗ねたように口を尖らせた陽が立っていた。
「起きたの?じゃなくてなんで起こしてくんなかったの?」
「気持ち良さそうだったから」
俺がそう答えると、はぁとため息をつきながら陽は隣の席に座った。
「勝手にいなくなるからさ、また何かあったのかと思って心配した」
頬杖をついてふくれている。
確かに陽は発情が起きてから毎日のように体調を気遣ってくれていた。
自分の言葉足らずを素直に反省した。
「ごめん…」
「今日は許す」
陽が俺の頬を軽くつねった。
「ところでなんでこんな勉強してんの?そんなにやらなくても悠はそこそこ成績いいだろ?」
「うん…ちょっと今回は出来るだけ頑張ってみようかなって」
「ふーん。あっ…」
何かを思い出したように陽が声を上げた。
「じゃあさ今週の金曜、俺の家で泊まり込みで勉強しよーぜ。ちょうど仕事で親いないし」
「えっ!」
思わぬ提案に声が出たところで、図書委員から静かにするようにと注意された。
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