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理解と愛情
青年「間違っても……オレの方から彼女にしつこくしたんじゃないよ」
父さん「……おまえはそんなことしない。おまえは女の子に無理強いする子ではない」
青年「……ふっ、ふふふ……意外だな。……こんなところが、やっぱり父親だ。…………はぁ……オレもいつか父親になるのか、それともそうはならないのか……いまの段階では、正直いってわからない……」
父さん「……フッ……腐っても鯛、だ……」
青年「これはいいこと言ったね……ただ、そこまで、卑下しなくていい」
父さん「…………」
青年「……オレは……オレ自身は……相手が父さんだから、言うけれど……そんなに親になりたい、と思ってはいない。これ以上……かわいそうな子供を、人間を、増やしたくない……その思いの方が強い。子供が嫌だ、子育てするのが嫌だって言ってるんじゃないんだよ。……秋華との間にできた子供なら、それはかわいいだろう。……けど……」
父さん「……秋華ちゃんは……もう、おまえと夫婦になりたいんだな。……にしても……うまく……やったな…………おまえ……」
青年「うまく……? なにを?」
父さん「……俺は反対せんぞ。……秋華ちゃんをおまえの妻にしてやれ」
青年「妻に……? 秋華を……?」
父さん「ああ。…………春人」
青年「……ん」
父さん「……俺とは異なり、おまえは良い父親になれる。もしも、父親になったとしても……安心しろ。ここに悪い見本がいる。俺のようにならないよう気を配るといい。それだけでいい。……すまなかったな……春人……おまえに関しては、おまえのことに関しては……母さんの件を含め……俺が、全面的に悪かった……俺だけが……悪かった。親になりたいと思っていない、というおまえの考えも、おまえ一人で作り出したものとは、とてもいえない。……おまえの顔を見ていると……俺は責められている気がして、仕方ない……仕方ないんだ……。母さんから、全部あなたが悪いのよ……と、指摘されている気がする。……おまえを苦しめたのは、俺なんだと……そんな想いしか、わいてはこない……」
青年「…………。母さんはそうは言わない。オレは父さんをとがめ立てて、さらなる十字架を背負わせてやりたいと思ってはいないよ。父さんは十分すぎるほど、苦しんでいるし、罰を受けている。……生きるのがつらい、という罰を父さんは与えられている。……オレは父さんと和解したかったんだ」
父さん「罰……そうだな。……和解は不要だ。……俺は罪人だ……おまえとは違う」
青年「父さんは父さんが考えているほど、悪人じゃない。逆に一人息子への愛情がある、いい親だ。我が子への愛情が無ければ、自分が悪かったなんて、感じないだろう? ……自責の念も生じないはずだ」
父さん「……おまえから、教え諭されるとはな……」
青年「実の息子に驚いた? ……父さんは生来の悪人とはいえない。最愛の母さんがいなくなったから、父さんは変わってしまっただけのこと」
父さん「……」
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