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とけるおもい
青年「……オレが父さんを憎んでいるとしたら……ここに来ると思う? 来たとして……わざわざ、父さんが目を覚ますのを待っていると思う?」
父さん「…………春人…………俺を……許してくれる、とでもいうのか……」
青年「許すどころか、オレは父さんが愛しい。……こうやって、会話できるのをオレはただひたすら、待ち続けていた」
父さん「……待ち、続けていた……か……。……。……。すまん、本当に……すまなかった……。……ぉ、おまえは頭がいぃ……んだなぁ……ぉ……おまえの、言う通り、だ……な……」
青年「オレの頭がいい? そうかな? ……オレが父さんの目覚めをここで待っていたのには、二つの理由がある。……で、一つ目は、これまで話したこと……父さんとの仲直り。んーーうまくいったかな? ……ふふふ、その顔を見たら……首尾よく……いったらしいねぇ」
父さん「!! はっ、や……ゃ……やめろぉ……。俺を……っ……み、見るな……やめてくれぇ……俺を、見るんじゃないぃぃ……っ……」
青年「……父親って、息子へ涙を見せたくないものなの?」
父さん「ば、ばかいうな……ぅ……な、涙など……母さんをっ、なくしてからぁ、とうに忘れたっ……忘れてしまった……んだ、俺は……なな、な泣いてはおらんぞぉ……っ……」
青年「オレもそうだった……。どんなことがあっても、涙という涙が出てこなかったんだ。……いまは泣けるようになった。秋華がいてくれるから……。秋華がいなかったら、オレは父さんと仲直りしたい……なんて、考えられなかったよ。……で、涙をこらえてる父さん、二つ目はね……その秋華から頼まれた……これを父さんに手渡すこと。……彼女が書いた手紙なんだけど」
父さん「……ン? ……ぅ……手紙ぃ? ……ぁ、秋華ちゃんがっ、書いたのかぁ……ぉ……おまえが読めぇ」
青年「オレが父さん宛の手紙を読む……? 秋華からの手紙を読みたくないの?」
父さん「ご……誤解するなぁ、ち、違うぅ!! ……こんな目では読めんっ、読めんだろぅがぁっ! ……ぉおまえがぁ俺へ読み、聞かせろぉ……」
青年「……世話がやける親だ。……嫌とは思わないよ。……読んであげたいところなんだけど、残念ながらオレにはできない。……オレでは読めない文字で書かれている手紙でね。……オレが料理を作っているとき、カキカキカキ……と、秋華は真剣にペンをはしらせていた。あの秋華が書き物をしているのは珍しくて……。なに書いてるの、とオレが聞いたら……春人のおとうさんにお手紙かいてるの……って。……ここだけの話……オレだって、こっそり読もうとした。父さんが起きるのをここで待っている間に……」
父さん「……っ……ふっ……ぅっ……」
青年「ほら……これ。封筒に入ってる。秋華から手紙だなんて、オレももらったことがない。……恵まれてるな、父さん。……ここに置いておくよ。……オレの顔を見てみろ。顔に書いてあるだろ? ……読みたくても、読めなかったんだ、とね」
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