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夏祭りは8月15日(昼間)
ネネの生まれた所は長野県の田舎町。
大きな行事と言えば夏に行われるお祭りだ。
この8月15日を境に夜は急に涼しくなる。
翌日お盆が終るので、田舎では掛布団は薄くてもこたつを出すほどだ。
この日を境に夏が終わる。
ネネの家はお店をやっていて、お祭りの時は町の中に車が入れないので、ネネの家の近くの高校が臨時の駐車場になっている。
みんなが店の前を通って町に降りて行くので、商売魂を持っている母親は店を閉めない。
ネネはいつも一人でお祭りをしている坂の下の道路にふらっと降りては屋台を見て歩き、疲れると家に帰って母が作ってくれてある、おにぎりや、きゅうりの切ったの。その日の為に作った鯉のうま煮や鯉こく(鯉の味噌汁)、鯉の塩焼きをつつく。
大人は子供達が屋台で買ってくるイカ焼きやトウモロコシをつまみにずっと吞んでいる。
お祭りは夕方からだけど、お祭りの日は朝、空砲の花火が鳴る。
今日はお祭りだ。という合図に。
小学校3年生の時、ネネは珍しく、昼間の暑い時間に、高校の少し上の坂道に行った。ネネは元々外遊びが好きではなく、暑い時間は大抵家にいる。
家の人はネネは家にいると思っているが、一応出かける時は声をかけてから出かける。認識されていないことも多いけれど。
「高校の方に行ってくる。」
そこには大きな野生の桑の樹があり、桑の実のなる時期にはネネはよく一人でそこに上って、桑の実を採っては食べた。
樹はとても大きいし、坂道の途中のさらに上り坂になった道路の横に生えているので、ネネが上っていることに誰も気づかないので、叱られたこともなかった。
高校の上に上ると坂道の切れた所から途端に景色が開け、里山の向こうには澄んだ青い空に、白い入道雲がモクモクと頭を持ち上げている。
『あぁ、夏の雲。』
ネネはそう思いながら、もう実がなっていない桑の樹に上った。大きな樹なので日影が涼しいのだ。
元々この辺りは標高が高く乾燥しているので木陰に入ると嘘のように涼しい。
ネネは自分のいつも座る場所を目指して樹を登った。座り心地の良い場所があるのだ。
でも、ふと目を上げるとそこに誰かいる。
地元の子供でもこの場所を知っているのはネネだけなのに。
「誰?」
ネネが聞くと
「東京から遊びに来てるんだ。」
男の子の声がした。
「よくこの場所見つけたね。」
ネネは驚きながら聞くと
「僕は毎年遊びに来るとここにきているよ?君こそ誰?」
「あたしはネネ。その下のお店が私の家。この樹は桑の樹で、桑の実がなる頃にはあたしは毎日ここに上って食べているけど、近所の子もこの場所知らないんだよ。」
「へぇ。じゃ、君の秘密基地なんだ。」
ネネは『君』なんて言われて、恥かしかった。この辺りの方言では『君』や『あなた』を指す言葉は『おい』とか『おめえ』だからだ。別に蔑視しているわけではなく、昔からの方言なのだ。高校生くらいになるとだんだん使わなくはなる。それでも、『君』はないだろう。
「別に、秘密基地っていう訳じゃないけど・・・」
「じゃ、僕がいてもいいかな?今、親は上のスーパーで買い物中なんだ。時間がかかるんだよ。」
「別にあたしの樹ってわけじゃないからいてもいいよ。」
「今日は君は夕方からお祭りに行くの?」
「うん。いくよ。いつも一人で見に行くの。」
「すごいね。僕は一人ではいかせてもらえないな。でも、君と一緒って言ったら行かせてもらえるかも。良いかな?たまには大人無しでお祭りを歩きたいよ。」
「別にいいけど・・・」
「じゃぁさ、夕方の6時に迎えに行ってもいい?お店の場所なら僕知ってるよ。いつも車を止めてからお店の前を通ってお祭りに行くんだ。」
「うん。」
実のところ、ネネはネネの母親が、ネネが誰かと一緒に行くくらいなら一人の方が安全だと思っていることを知っている。だからと言って、嘘はつけない。
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