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夏祭りは8月15日(夜)
昼間会ったあの男の子が迎えに来るまではネネは実際の所、約束を忘れていた。
あれから少しも話さないうちにあの男の子が自分の腕時計を見て
「あ、しまった。スーパーに戻らなきゃ。」
と、行ってしまったからだ。
ネネはなんだかそのまま桑の樹にいるのも間抜けな気分になって、入道雲が見送る中、そのまま家に戻った。
「おかえり。どこいってただい?」
「ちょっと高校の上の方。」
「あ、いらっしゃいませ~。」
母との会話はいつもこんな感じで、お客さんがくると途切れてしまう。
お祭りが始まった。笛の音が坂の下の道路から聞こえる。
お祭りをするのは中山道とよばれる町の下の段の道路。ネネの店は上の段にある。町の主要な道路は町を平行に上と下に走っているのだ。
「こんばんは。ネネさんいますか?」
「あ・・お母さん、昼間このこと約束したの。お祭り一緒に行っていい?」
「え?どこの息子さん?見かけないけど。」
「僕、町内の○○の叔父さんの家に来ています。昼間一緒にお祭りに行こうって約束してたんですけど。」
「ごめん、おかあさん。言うの忘れてた。」
「○○さんのとこの。じゃぁ、一緒に行ってもいいよ。ネネはちゃんと迷子にならないように最後はうちまで連れておいで。」
お母さんにしては珍しくすんなりとお許しが出た。きっと○○さんはお店のお得意さんなのだろう。
「行こう。」
せっかくお許しが出たのだ。ネネはお母さんの気が変わらないうちにさっさと家を出た。
「最初に松明投げるの見る?」
「うん。あれかっこいいよね。」
このお祭りは火祭りでもある。松明つけて山からは知って降りてきた人たちが橋の上に並んで火のついた松明を川に一斉に投げる。
暗闇の中に火の残像が残り、それは美しい眺めになる。
松明を投げる橋の一つ下の橋の上は満員だ。一番よく見える場所だから。
「あの、この子、東京から来てるんです。」
ネネは近所で見たことのあるおばさんを見つけて前に出してくれるよう頼んだ。
「ネネちゃんも前に行きな。ほら、あんたも。」
ネネと男の子は橋げたの所まで出してもらって一番前で松明を投げるところを何度も見た。
たくさん見たので、次の人に代わる為、場所を替わってくれたおばさんにお礼を言って、橋を離れた。
「次はお神輿だね。まだ降りてこないから先に『おしし』を見つけようか。」
「あぁ、獅子舞の事だね。こっちの人は『おしし』って言うよね。」
男の子は笑顔でそういったが、特にばかにしている風でもなく何だか嬉しそうだった。
獅子舞も、独特の迫力ある舞を見せては、子どもの頭を噛む真似をしにやってくる。無病息災の為だそうだ。
丁度獅子舞が来て、ネネの頭を噛む真似をした。ネネは目を瞑ってしまったので、その男の子が頭を噛んで貰ったか見えなかったが、隣にいたのだから獅子舞もちゃんと噛んでくれただろう。
その後、金魚すくいや、輪投げや、くじ引きの屋台を見ながら、お母さんから貰ったお小遣いで綿あめを買って、お神輿が来る前に、少し疲れたので、ネネは男の子を誘って一回家に戻った。
そして、いつものように、おにぎりやキュウリを食べた。男の子にも食べるように促したのだが、
「一緒に歩けて楽しかった。僕これで、戻らなきゃ。」
と、言ったので、ひきとめるのも相手の親御さんの事もあるので、そのまま
「じゃぁ、もし会えたらまた来年のお祭りでね。」
と、言って、その場でそのことは『さようなら』をした。
その後、ネネはいつものようにお神輿を見に行くのも一人で行ったし、お母さんたちも何もなかったようにお祭りの日を過ごした。
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