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そうだ、異界に行こう。
嫉妬に狂い異形の化物になってしまった母を助けるために。今も成仏出来ずにさまよっている母の魂を見つけてちゃんと弔ってあげないと。
僕の役目は終わったのだから。彼にはもう僕なんて必要ないのだから。
焔の国は四方を砂漠に囲まれた一年を通じて温暖な国だ。交易都市として栄えている。
彼というのは、この国の第2王子の瑰様のことだ。僕とは乳兄弟。幼い頃から王宮の中で一緒に育った。母を亡くし王宮を出て実家に帰ったけど、父は愛人だった女性と再婚し子どもが生まれていて、僕の居場所はどこにもなかった。3日と経たずに王宮に舞い戻った僕に、瑰さまはなにも聞かずお帰りって笑顔で迎えてくれた。
第2王子という微妙な立場の瑰さま。
第1王子の龍桂さまと、第3王子の龍恩さまの母親は皇后に次ぐ地位にある貴妃と賢妃に対し、瑰さまが小さいときに亡くなった母君は常在と呼ばれる側室の中では6番目の地位にあり、後ろ楯もないに等しい。そのせいか瑰さまは王位にはまったく興味を示さず、成人を迎えた年に辺境の地へと自ら向かわれた。このまま静かで穏やかな日々が続くかと思った矢先まさかのことが起きた。
龍桂さまと龍恩さまが相次いで原因不明の病に罹り懸命な治療の甲斐もなく亡くなったのだ。陛下も罹患し、瑰さまは王宮に呼び戻された。
深刻な後遺症が残ったとかで陛下は瑰さまに帝位の座を譲り仙洞御所へと移られた。即位した瑰さまと、隣国の姫君との結婚式が今まさに執り行われている。
荷物をまとめ王宮を去る用意をしてたら、
「明璉なにやってんのよ!」
ドアが乱暴に開いて尚食さまのヒステリックな声が聞こえてきたから、慌ててずだ袋を寝台の下に押し込んだ。
「猫の手も借りたいくらい忙しいのに。こんなところでサボっていないでさっさと手伝ってよ!」
「す、すみません」
「陛下のお気に入りだかなんだか知らないけどいい気にならないでよ。アンタの母親が先帝をたぶらかして殺そうとしたこと、みんな知っているんだからね!」
尚食さまの言葉が体にぐさり、ぐさりと、突き刺さる。
「去勢していない男が後宮にいること自体おかしい」
「陛下はなんでこんなに気色悪いのを側に置くのかしらね?」
僕が言い返せない立場であることをいいことに、尚食さまや他の女官たちは言いたい放題だ。
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