57人が本棚に入れています
本棚に追加
1.隠された地へ
まだ闇が深い暁の頃。
暗闇に沈むように佇む生徒を確認し、リディアは頷いてついてくるように促す。
実習前の集合地点は、大学裏門前。細く開いた鉄門をくぐり、並木道を歩んでいくと、ゆるい下り坂になり開けた空間にたどり着く。
そこは、水が枯れた人工的な噴水跡地。周囲の石畳の隙間を埋め尽くすように雑草が生い茂る空間は、幻想的と言うよりも廃墟感満載で虫に刺されそう。
昼間でさえ生徒たちも近寄らないそこは、今夜リディアたちが近づくと、噴水の名残を見せる崩れた円形の石壁の中に、青白い光が浮かび上がる。
それは、直径五メートルほどの円陣だった。
時刻は午前四時、指定の時間ぴったりだ。
「転移陣よ、皆入って」
わずかに躊躇いを見せた生徒達だが、すぐに興味深々で発光する円の中に入っていく。それは、完全体とはいえない閉じていない円だった。
最後に足を踏み入れたリディアは、誓願詞を唱える。
“円を成せ、世界を繋げ。開かれた入口を閉ざし、新たなる出口に運べ”
魔力を注げば、光を成す線が繋がり完全な円になる。そして地面から背を覆い隠すような光のカーテンが下から上に昇る。
上昇するエレベーターに載ったときのような浮遊感に包まれると、直後に今度は下降するそれが地上に到着したときのような、軽い重みを身体に感じ、そして光が消えて視界が開ける。
そこは、鬱蒼と生い茂る森の中だった。
最初のコメントを投稿しよう!