182.実習の責任

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182.実習の責任

 リディアが頭の中で自分の判断を振り返っていると、ディアンが淡々と横で口を開いた。 「この地で何か問題が起きれば、それは俺の責任だ。お前は学生の体調と魔力の残りに気を配れ」 「――ですが」 「大学は、実習先の意向に沿う、そう契約を交わしたはずだが?」  リディアは黙り、「ありがとうございます」と頭を下げた。  実習先では、「学生の安全は守れないので教員が見張っていて下さい」なんて言われることは当たり前。  実習で何か問題が起きれば、現場の人間が学生についていても「教員は何をしていたんだ」と、現場から教員の責任とらされる。それが実習の実態だ。    防げなかった自分たちの責任、なんていってくれる現場の責任者は少ない。  リディアは息を吐いて、拳を握りしめる。 「この周囲で、何か感じ取れるか?」  不意に投げられたディアンの問いに、リディアは地下や周辺に意識を飛ばす。そして首をふる。 「淀みは感じますけど、わかりません。人じゃないので意識がないと……」  リディアの能力は人の意識を捉えて魔力を同調するもの。魔獣とは同調できない。  だが、違和感というもので淀みを覚えるのは、学生に進入禁止を言い渡した地帯。  地域の民でさえも入るのを拒んでいる箇所だ。  危ない、そこに近づくな、の一点張りだったが、先程の会談で、ようやく“御霊沈めの儀式”とやらを行ってくれるところまで、ディアンがこぎつけた。  長老達がそれを終えれば、土地に入ってもいいと言われたので、団員たちはそれ待ちだ。   一応監視カメラと虫目を飛ばしてを注意を払っているが、その地はただ巨木があるだけで、何の動きもない。 「地下のシリルの位置が確認できた。部隊を送る」  報告をしてくるガロにディアンが頷く。  リディアも立ち上がり、中途半端な姿勢で、ウィルの救助に自分も参加しようかと迷う。
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