6.不夜城

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6.不夜城

 攻撃されたときに迎撃できないではないかと思われがちだが、彼等はいざとなれば、なんとでもできる。魔法陣なんて吹っ飛ばせる人たちが殆どだけど、喧嘩程度でふっ飛ばしたら厳罰が待っている。    ただ、ここに入ると自分の魔力に干渉される感触には、いつも一瞬だが不安を呼び起こされる。 「あとは、精神の沈静化もあるかな」 「へえ、どうりでなんつーか、気力が萎えるつーか」  マーレンに、「あなたはここにずっといたほういいかもね」、と言いたくなるのをこらえる。駄目だ、教師はそんなことを言ってはいけない。 「あと、消臭効果」 「へ、へえ」  魔法師のくせに、めちゃくちゃ血気盛んな筋肉戦闘集団。野郎ばかりで構成されていれば、臭うからね。    そしてこの精神の沈静化――怒りとか欲望とかいろんなのを治めてくれる効果は重要だ。  リディア自身は実感がないが、戦闘というのは闘争本能を極限まで高めて臨むから、当然男性ホルモンが出まくりだ。そして任務後は、その興奮が冷めやらない。はっきり言って、一緒の任務後は怖い時がある。そんなのが集団で帰ってくると、基地は怖いくらいギラギラした眼差しの欲望に満ちた彼等の身体から放たれる気で、視界が曇るほど。  それを浄化して沈める効果の魔法陣は、必須だ。    設置当初は、過干渉だと反対意見も多かったらしいが、ややクールダウンされることで、ここでも街中でも揉め事が減ったから、上層部はやめる気はないだろう。    とはいえ、そんな内情を学生に自慢げに説明する気はない。    左右には幾つかの通路と扉があり、夜明け前にも関わらず少なくない数の魔法師が行き交っていた。奥の扉は司令部で、当然最高ランクのセキュリティが完備されている。    ここは常に不夜城。  そして魔法と科学が混在する空間は、異界じみていて黙り込む生徒をそのままに、リディアは一つの部屋に進もうとして、後から首に手を回され身体を強張らせた。
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