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8.指導教官
「覚悟してきたんだろうな、こっちは何十年分の愛が溜まりまくってんだぜ? 今日はゆっくりできんだろ」
魔法師団を抜けたのは、二年前だ、“何十年分の恨みつらみ”に聞こえる。けれど、こうやって変わりなく接してくれて、緊張が解れてくる。
通りすがりの知り合いが、ウィンクしたり、意味ありげにニヤリと笑いかけてくるから、正直安堵する。
「今日は、無理よ。学生引率だから後日改めて――」
「おい、そんな適当な理由で逃げんのか? ああん?」
ドスの聞いた声。まじで顔が怖い。本気で脅されている気がする。
とは言え、引き際はさすが。パっと腕を離して、呆然とする生徒たちに恐ろしい笑みを向ける。
「で、こちらがアンタのベビー達か? まさか本当に浮気してんじゃねえだろうな」
「生徒だから。今は、セクハラもパワハラも煩いからそういうのやめて」
ちっと舌打ちをして去っていく彼女は、戦士だ。岩のような腰も太腿も男にしか見えない、がに股の歩き方も。
「先生? 今の――恋人、とか」
「シリル・カー。多分あなた達の指導担当。彼女は頼りになるから安心して」
“彼女”という代名詞にあがった背後のどよめきは無視して、手前のドアを開ける。ずらりとポールに掛けられた並ぶ衣装まで近づき、彼らを振り返る。
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