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プロローグ
インクを流したように黒く染まる夜。
風化した柱や壁に覆われた遺跡は、深い静寂に包まれていた。 土や石が剥き出しになり、時間の流れによって風化された痕跡が残っている。荒涼とした風景だが、それがまた怖いくらい美しい光景でもあった。
だが、今宵新月の地に立ち尽くす集団だけは、足を踏み入れる前からわかっていた。
この朽ち果てた遺跡には、あるものが封印されていることを知っていた。
「ここか……」
ぽつりと呟いた声に、仲間の一人である少年が反応した。小柄で朱色の天然パーマで前に黄色いメッシュを一房垂らしている桃色の瞳をした、あどけない少年。
一見するとどこにでもいそうな普通の人間にしか見えない。のだが、強烈な邪気を発するそれは決して普通の人間ではない。
「そう、ここにボクの力が封印されているんだ♪」
少年は無邪気に笑いながら話す。
「さぁ、早く始めるよ~」
少年の掛け声と共に悪しき儀式が始まろうとした。
『闇の禍津より生まれしものよ、今ここに力を解放せんと願わん。我に仇なす者、降伏せよ。業の御魂、今こそ復活の時』
少年が封印を解く呪文を唱えると同時に、遺跡全体が震え始めた。そして遺跡全体にヒビが入り崩れ落ちていく。その瞬間、紫色のもやが溢れ出すと、そのまま少年に吸収されていった。
「やったぁ! うまくいったよぉ! 嬉しい……力がみなぎる! このまま消えちゃうかと思ったよ」
少年は歓喜の声をあげ、両手を挙げながら飛び跳ねた。
「さてと、力が戻ったことだし手始めにボクの力を封印した忌々しい……あの一族を根絶やしにしようかな」
「あの一族はダメだよ」
少年の言葉を否定したのは、黒いマントに身を包んだ大柄な男だった。灰銀色の髪と血のように赤い瞳を持つ特徴的な人物だ。
「え〜なんでダメなの? あいつらはボクの仇なんだからね!」
「僕のお気に入りがいるからね。そのお気に入りを殺したら、君でも許さないよ」
男はそう言って微笑みを浮かべたが、目が笑っていなかった。それだけではない。殺気を放っているのだ。
「え〜何それ〜! ……でもマスターが言うんじゃしょうがないか」
少年は不機嫌そうな顔をしたが、すぐ笑顔に戻った。
「さあ、本格的に始めようじゃないか。我々絲神の悲願である『人類怪異化計画』を───」
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