原罪は何処より

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彼女とは2ヶ月ほど前に別れていた。お互いにとっての日常生活が日常だと感じられなくなることが多く、積み重なっていく違和感の数が許容量を超えてしまったことが原因だ。容姿は100点、彼女の趣味や思想の崇高さ100点、そして体の相性は120点。しかし、人類が進化の過程でどうしても排除することのできなかった恒常性に逆らうことはできず、自分の中の当たり前が当たり前ではない状況を静観することだけはできなかった。 最後に一緒に過ごしたのは、彼女の誕生日に連日で外泊していたことだっただろうか。ボーナス前だったため金銭的な余裕もなかったが、僕にとっては唯一と言ってもいい眼福である彼女の笑顔を見るためにプレゼンも買い、高いレストランも、ホテルも予約した。ただやはり、どうしても共に過ごす物理的時間が長くなればなるほど、僕にとって100点の彼女から減点されるものが生まれてしまう。新幹線のホームから降り、それぞれの自宅に向かう帰路にて別れの言葉を切り出したのは僕だった。 しかし、別れてからも彼女と僕とのやりとりは続く。直接会うことはないけれども、会うことがないからこそ生まれる完璧な彼女の人物像だけが構成されていき、磨かれ、より理想的なものへと昇華されていく日々。彼女の誕生日の1ヶ月後が僕の誕生日だったこともあり、それを祝えていないことを彼女が思ったのか、付き合っていない関係ながらも1泊2日の旅行を提案された。 正直、理性的に歯止めが効くような状態ではなかった。その2ヶ月間で他の女性と性的な関係にあったものの、自分にとって完璧に形成された彼女を超えるものとは到底出会うことができず、悶々とした状態が続いていたから。彼女をまた拝むことができる、彼女の体に触れられる、彼女の考えに、思考に浸かることができる。体裁上、断る内容を三言ほど述べた後、予定調和的に旅行へ行く予定をカレンダーへと記入した。
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