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そんな彼女との旅行、楽しくないわけが到底なかった。田舎道をドライブし、語り合い、浴衣姿を眺め、部屋に付いていた外湯に浸かり、部屋での食事を堪能し、少し早めに床に付く。1度だけ久しぶりに体を求め合い、軽くシャワーを浴びた後、浴衣姿の人でごった返す街並みを歩き、射的の記録を塗り替えたのち、それほど得意ではないお酒を飲みながらまた宿に戻り、またお互いを求め合う。
2日目も早くから行動し、朝から温泉に浸かり、食事を取り、身支度を完全に済ませて、チェックアウトまでの時間をスマホでも見ながら過ごしていた。彼女が言う。
「チェックアウトまで時間あるし、ちょっとだけ、寝てもいい?」
僕はそう言う彼女のために布団を引き直した。カバーを付けようか迷ったが、また外すのも面倒だし、時間が有り余っているわけではないことを考慮して、さっと彼女を布団に誘った。宿の女将さんがさっき布団を上げてくれたばかりだった。
時間は、それほど十分にあるわけではない。チェックアウトまでに30分も猶予はないだろう。深く寝てしまっては宿側に迷惑がかかる。スマホのアラームをセットして、2人で布団に包まる。いつの間にか布団の中で服を脱いでいる彼女。僕のズボン越しに滑らかな肌が当たっていることがわかる。いつにも増して意地悪な顔で彼女はこちらを見つめている。これほど自分にとって完璧な女性はいない。服を脱ぎ、形だけの前戯を済ませ、きっと僕が服を脱ぐ前から濡れていたであろう彼女の中に押し当てていく。
そう、時間的な焦りが、この2ヶ月間での焦りが、磨き上げてきた自分の中の彼女への焦りが、お互いにとってそのままの形での接合を求めていた。きっとそうに違いない。いつもと違う感触、いつもと違う気持ち、いつもと違う罪悪感。その勢いのまま、彼女に悪魔が囁く。「中に出していい?」小さな声で赦された僕は、何者もを疑うことなく、何者もを考えることなく、己の本能に逆らうことなく、そのまま彼女の中で果てた。
車での帰り道、最後にした行為について、なんとなく彼女が口を開く。
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