夏の終わり

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 あれから数十年・・年を重ねた私は今、誰も使っていないプールを前にしている。  眼前に横たわっているのは、小中学校によくあるような25メートルプールだ。  私の知人の好意で、プールサイドのデッキチェアを使わせてもらうことになった。  それも定期清掃の前の少しだけの時間だ。 「こんな所に座っていたら暑くて干からびてしまうぞ」  知人は笑って言ったが、 「かまわない」私はそう言って、「物思いに耽る場所が欲しかったんだ」と言い訳のように言った。  そう答えたが、物思いなど、どこでもできる。  自宅でも、喫茶店でも、それこそ水のないプールを前にしてもできる。  けれど私は欲しかった。  過去の光景を思い浮かべることのできる場所が欲しかったのだ。
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