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それから俺は『仕事』に精を出した。
俺が飛んだダムは自殺の名所になっていて、結構な頻度で肝試し目的の人間が訪れた。
中には「動画配信者」と思われる人間も来て、ラジオのような道具を使ってコチラ側に話しかけてきたり、何でもない方向を見て急に悲鳴を上げて逃げ出す事もあった。正直、その様子は面白いものがあった。
俺はというと、彼らがダムの下を覗き込んだタイミングで、生きている人間には出来ない角度から顔を覗かせてみたり、暗闇の中から歩み出たりと……仕事内容をざっくり言うのであれば、アチコチでただ姿を現して、出来る限り彼らを脅かす、お化け屋敷のお化け役のような事をやっていた。
最初は驚く彼らの反応もマチマチで楽しかったし、時折現れる霊能者、それも本物が来ると「祓うか祓われるか」の瀬戸際になってスリルも感じたが、回数を重ねる毎に飽きも感じるようになっていった。
だが、そんな俺にも変化が訪れるようになった。
気付いたのは偶然だった。ある時、霊感が強い人間がダムに来た。コイツはそこそこ霊障慣れしているのか、ちょっと姿を見せたり声を聞かせる程度では良い反応を見せてくれなかった。悔しくなった俺は、「何かもっとすごい事起きろ!」程度のノリで、全身を力んで彼を睨んだ。すると、ダムのフェンスがバキバキバキ!!と次々に音を鳴らせたではないか!これには彼も驚いていたし、俺も驚いた。自分にこんな事ができるなんて思っていなくて、誰もいなくなったあとはしばらく呆気に取られた。
俺の担当者…あの日、慰霊碑の前で俺を採用してくれた柳さんにこの話をすると、「レベルアップですね!」と喜んでくれて、しかも時給を上げて、お祝い金の支給と、手当ても上げてくれた。
お給金・お金、と便宜上は言っているが、死んだ身の俺にとって金など無用の長物だし、普段も使うことはなく、支給されたものは全て会社の口座にそのまま積立されている。
柳さんに、「幽霊として誰かを脅かすのって、面白いですけど、何か意味があるんですか?」と聞いたことがあるが、答えは「あなたたちが生者を脅かすことで助かる存在がいるのです。我々よりもっと上の存在で、私も会った事がありませんが…お給金はあなたが”渡る”時に、必要になりますよ」とにこやかに返された。
俺がどこに渡るのか、いつ渡るのか、それは自分の意思でどうにか出来るものなのか、まだまだ疑問はつきない。だが今の俺にとっては、仕事があって何かに必要とされている状態が幸せでならない。
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