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続く夏の日
元々、常夏の国はさらに気温が上がり、平均気温が50℃になった。
世界中の四季のあった国は常夏となった。
雨はスコールのように突然降り、四季を過ごすための家はスコールに絶えられずに屋根の修繕や家の建て替えを余儀なくされた。
最初に夏の終りがこなかった年には、まだみんな期待を持っていた。
そのうちきっと秋を呼ぶ長い雨がやってきて夏は終わりを迎えるはずだ。
一年待った。二年待った。三年待つ頃には、気象庁が、この先夏の終りはこないだろうと予報を出した。
地球の気候は変わってしまったのだ。温暖化は常態化し、地球を包み込んだ。もう為すすべはない。
少しでも二酸化炭素を減らす努力を続けるしかない。
人々の生活も変わった。
夏の終りがこないと告げられた日から、衣料品を扱う工場では全てを夏物に切り替えて工場を稼働させた。
農家は作る作物を変えなければ何も収穫できなくなった。農協もあまり役には立たなかった。毎年わずかばかりの暑さに強い小麦を作る以外はできなくなった。
世界でそんな状況なので、常夏の国から、いろいろな植物の種や苗を輸入するようになった。
しかし、これまで、検疫でしっかり検査をしていたいわゆる生ものである植物類の検疫も甘くなり、これまで、常夏の国でしか発症していなかった病気が世界各国で発症することとなった。
30年間の間に、飢餓による死者、病気による死者数が増え、世界の人口は半分に減ってしまった。
先進国では比較的早く手を打てたが、それでも4分の1程の人たちが減ってしまった。
この先、いつになったら、夏の終わりが来るのかは全く予想がついていない。僕はもう、60歳だから先は短くなっているが、子ども達はこの先もこの暑い中でずっと暮らしていくのだろう。
それとも、最後の夏の終わりの年のように突然夏が終る時が来るのかもしれない。
そして、今度は冬の終わりが来なくなるのかもしれない。
まだ、地球温暖化を唱えていたあの頃に、もっと真剣に自然環境の問題に取り組んでいたらこんなことにはならなかったのかもしれないのに。
僕は最近具合が悪い。ツェツェ蠅に先日吸血されてしまったかもしれないのだ。アフリカにしかいいなかったこの蠅も今では世界中に広まっている。
この蠅に吸血されるとアフリカ睡眠病という病気にかかって、死に至る。
今は妻にも先立たれて独り暮らしなので、誰にも気づかれないままにこの暑い部屋で死んでく行くのかもしれない。
いや、まだ病院に行けば間に合うかもしれないが、この病気は発症してしまうと大抵が助からないのだ。
病院も色々な伝染病の人でいっぱいなので、助からない病気だと解かると家に帰されてしまう。
行っても無駄なら、この暑い中を出かけるだけ体力を消耗するというものだ。
せめて、息子たちに、僕の遺体が腐敗する前に見つけてもらえるよう、電話で連絡をしておこう。
砂嵐で天候が荒れるので、今は電線は殆ど地下を通っている。通信網ではこまらないのだ。
でも、荒れた天候が続くので、地上の交通網は昔より格段に悪くなっている。エアコンをかけていても大して涼しくはないので、僕の腐敗前に息子たちが来るのが間に合ってくれれば良いのだが。
*******
今、僕はあの最後の夏の終わりの年の夢を見ている。やはりアフリカ睡眠病を発症したらしい。どうにも眠くて我慢が出来ない。
暑くて暑くて、どうかしていると文句を言いながらも、秋を呼ぶ雨が降り始めたときのあの、夏が去って行ってしまうなんだか少し物哀しい気持ち。
寒くなる前のさの少し寂しいような微妙な気持ちを思い出す。
僕が最後に体験できたあの季節の移り変わりを、ただ、懐かしく。
ただ、心寂しく。思い出しながら意識の渦の中に飲み込まれて行く途中なのだ。
どうか、本当に夏が終わらないことが夢であればいい。
毎年やってくる夏の終わりのあのすこしの物哀しさを、どうか、毎年感じられるように。
【了】
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