7人が本棚に入れています
本棚に追加
終ったはずなのに
随分前に、父はコロナで亡くなった。
そして、父は一つの作品を書き残していた。
父はあまりに暑くて終わらない夏を嘆き、あんな作品を書いたのだろ思った。病院でもエアコンが効きづらく、熱のある父には辛かったのだろう。
コロナの熱に浮かされながら、熱帯の病で亡くなって行く自分をそこに投影して。
僕は父がなくなったあと、その作品を読んで、
『まったく、本当に終わらない夏だよな。』
と、苦笑した。
しかし、その作品は、翌年ベストセラーになった。
予言本として。
そう。本当に終わらない夏が来ていたのだった。
あの作品を父が書いたのが、亡くなった父の50歳の年だった。
確かにあの夏は暑かった。そして、父が書いたとおりに、終わりを迎える事はなかった。
僕は、最後の夏の終わりが、父の亡くなる前の年だったことに改めて驚き、父はコロナの熱に浮かされながら何を見ていたのだろうと考えずにはいられなかった。
父の作品通り、突然、夏が終わらなくなり、その年から本当に夏が続くことになった。
終らない夏の始まりにも、9月半ばになって、天気予報では30度以下になるから秋雨前線に乗って涼しさが戻ると言っていたが、30度から少し下がったとて、秋にはならない。
そんな風に国民に、30度から少し気温が下がれば涼しいのだ。という幻想を植え付けながらそのまま12月を迎えた時には、12月で27度。まったく秋も、冬も来なかった。
それから毎年、夏の気温は上がり続け、結局父の書いた作品通り平均気温が50度を超える地域も世界では多くなってきた。
あぁ、僕の夏の終わりは、父の亡くなる前の年。
みんなで行った、海の家で、クラゲを踏まない様に気をつけながら、家族全員で、最後の花火を楽しんだあの夏だったのだ。
少し涼しい風をはらんだ湿った空気を肌で感じたあの夏の終わりの夜の日を、僕は、何度も、何度も、頭の中で思い出してみるのだった。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!