継承の章

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第十二話 見送り人 「行ってしまいましたね」  ぽつりと呟くのは母、佐江だ。  神社の鳥居の下で哉斗(かなと)と並んで山を眺めている。その視線の先には息子の影を見ながら。  哉斗もじっと見据えたまま口を開く。 「佐江さん。すまない。玲斗に続き優斗まで」  その言葉に佐江はゆっくりと首を振る。 「いいえ。私も共咲(ともさき)に繋がる者です。玲斗さんと結婚した時から覚悟はしていましたから。お義父さんが気に病む必要はありませんよ」  気丈に振る舞う佐江の言葉に哉斗は自身の不甲斐なさを痛感する。  二人は律の訪れに関して玲斗から知らせを貰っていた。化け物退治についても同様に。それでも敢えて優斗には告げずにいたのだ。  己の目で見て、決めてほしかったから。  玲斗が寄越(よこ)したあの律という少年から事情は聞いていたかもしれないが、優斗は自分達を責める事は無かった。  優しい子だ。  心配をかけたくなかったのかもしれない。  特に佐江には。  旅立つ際にもただ父の所に行くとだけ言い、理由は話そうとせずただ哉斗をじっと見つめていた。  (おぞ)ましい化け物との戦いに理不尽にも巻き込まれたというのに。幼さの残る孫が一人で立ち向かおうとするその姿は痛ましく、これから歩む道を思えば胸が苦しい。  でも。  その隣には初対面の時とは顔つきの違う少年が寄り添い、その眼差しに優斗を護るという強い意志が感じられた。  二人共にまだたった十五の少年だ。  遊びたい盛りだろうに、その背には幾億の命が背負われている。  だが、あの二人なら大丈夫。  お互いを支え合い生き抜くだろう。  そう思わせる何かがあった。  滲む涙を拭う佐江の肩を叩き、哉斗は孫の背中を見送った。
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