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「昔っから思ってたけど、はっちって行動鈍すぎだよね~」
小学生の頃からバスケットボールが大好きで、その上達のために常に活発に体を動かしてきた芭苗からしたら、葉織のような暮らしぶりはそりゃあ、鈍くさくも見えるだろう。
「まぁ、そういうスロ~ウな感じで器用じゃないはっちのことが、しおちゃんは好きなんだろうからさ。惚れた弱みってやつで、しおちゃん自身の問題だよね」
仕方ない、仕方ない、と、諦め方面で肯定してくる。なんだかな、責められるよりそっちの方が、なんか嫌だな。葉織は胸の内だけでその感想を処理する。
「はっちが志望校変えたい理由は?」
「K高校、思ってたより偏差値高くて……」
そもそもの志望動機だって、経済的に余裕のあるわけではない潮崎家なので、「徒歩で通える公立高校だから」以外の理由はなかった。世間を知らない小学生は、自宅近くの高校のレベルなど考えもせず、高校生になったらそこへ通うものだと考えがちである。
現実を知った葉織は、彼の亡き母の母校であり、K高校よりは偏差値の少し低い高校に志望を変えようと思った。だが、葉織より成績の良い羽香奈にとっては、K高校だって合格圏内。実力があるのに、自分に付き合って志望校のランクを落とすなんて、葉織にはとても受け入れ難いことだった。
「だったらはっちが、K高校合格出来るように今から頑張れば良くない? あと半年近くあるんだから」
「高校生にもなって誰々ちゃんと同じ学校行きたいから、なんて理由で進路選びたくないし……それだけじゃなくて。わざと、羽香奈と違う高校行ってみるってのも、ありかなって思ったんだ」
「なんで? ついに重たくなっちゃったとか? しおちゃんからの愛が」
「そんなわけないだろ……」
軽い冗談だとしても、羽香奈の気持ちをそんな風に言って欲しくない。あえて口にせずとも葉織の心情を察したのか、未知夫はぽつり、ごめん、と溢す。待ち合わせの時のそれと違い、ちゃんと気持ちがこもっていた。
羽香奈が葉織ときょうだいになったいきさつは、彼女の生まれ育った家で、心に深く傷を負ったから。それは行政の介入によって羽香奈をそこにいさせてはいけないと判断されるほどに過酷だった。
生家を出て江ノ島へ来て。生まれて初めて、羽香奈に心からの優しさで触れてくれたのが葉織だった。
『葉織くんはわたしの全てを救ってくれた。だからわたしは、わたしの人生全てを使ってその恩返しがしたいの』
葉織のいない場面で、羽香奈はそう言っていた。芭苗達はこっそり、葉織にもそれを教えてくれた。
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