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「はっち~、お待たせ~」
「……せっかく男同士で相談したいと思って頼ってるのに、彼女連れで来るなよ……」
ふたりきりでないと、とてもじゃないが話せない。それほどまでに後ろめたい相談ではないのだが、こちらへの断りもなく勝手にされてしまうとなると、やはりげんなりはしてしまう。
「ごめんごめ~ん」
本心では悪いとはまるで悪いとは思ってなさそうな軽~い調子で、少年……未知夫は手を合わせて謝る。葉織の中学三年生でのクラスメイトで、小学生からの幼なじみでもある。
「べっつにぃ~? あたしは、はっちと話したくて来たんじゃないし~。しおちゃんが心配で来たんだから」
未知夫の恋人、芭苗は露骨に咎めるような態度を葉織に向ける。中学三年生では羽香奈と芭苗は同じクラスだ。彼女は羽香奈が葉織と家族になって間もなくからの親友で、だからこそ。九月の新学期を迎えて、一か月弱ぶりに顔を見た羽香奈の異変に、一目で気付いてしまった。
「しおちゃんて学校で会うと、『今日も葉織くんと一緒に登校出来て幸せです!』ってば~っちり顔に書いてあんの! それが今年の夏休み明けときたら眉毛はハの字で口はへら~っとしてて目は笑ってない。しおちゃんがこんな風になるんなら、原因ははっち以外にありえないっしょ?」
「ハナちゃんが見ただけでわかっちゃうほどなんだ……今の羽香奈って」
実際、芭苗の想像から一寸の間違いもないのだから、どんなに咎められようが葉織は受け止める覚悟だった。
「はっちから俺への相談っていうのも、どうせしおちゃんのことなんだろ? だったら芭苗が一緒だっていいじゃん。逆に話が早いって」
「わかったよ……悪いけど、お礼はみー君の分しか用意してないから」
はい、どうぞ。先ほど店で買った缶コーヒーを未知夫に手渡す。葉織は未知夫と違ってコーヒーに詳しくないから、有名な銘柄などわからなくて適当に選んだ。幼い頃から祖父母に育てられた葉織の舌に馴染みがあるのは素朴なお茶の類だ。未知夫のように、「同級生からちょっと格好よく見られたい」などと不純な理由で、中学生から無理して苦~いコーヒーを飲むなんて。全く理解が及ばない。
葉織が事前に「ここでならじっくり、集中して話せるはず」と決めていた場所へ、未知夫と芭苗を案内する。
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