人生でたった一度

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「何、ここ? 初めて来たね」  江ノ島で遊ぶ時、島外から来る未知夫達を遊べる場所まで案内するのは、その中に住んでいる葉織の役目だ。だが、葉織はここに友達や羽香奈を連れてきたことはない。 「サザエ島。江ノ島の入口からけっこう歩くし、ヨットハーバーの隣だし。わざわざみんなと来るような場所じゃないと思ってたから」 「って言いながら今日は連れてきたじゃん」 「ここの遊歩道歩かないとサザエ島に着かないし、この道の先に小さな山みたいな階段状の展望台がある。そこに座って遊歩道の方見ながら話してたら、万が一、羽香奈が来たとしても気付きやすいから。普通に店に入って話してたりしたら人の出入りが多くて見落とすかもしれないだろ?」 「あのはっちがそんな周到に計画して……そこまでしてしおちゃんに聞かせたくないの?」  そう言う芭苗は一体オレをなんだと思ってるんだ? と、温厚な性格の葉織ですらちょっと引っ掛かりを覚える。でも、今はとにかく羽香奈の相談を始めたい。時間が惜しい。 「それで、俺に相談って何?」  サザエ島の展望台階段に座って、未知夫が切り出す。 「みー君の高校の志望校って、羽香奈と同じK高校だったよな」 「そうだけど。前に、はっちの志望も同じとこって言ってなかったっけ?」 「オレは志望校変えたいと思って。それを羽香奈に話したら、『じゃあわたしも同じ学校に行く』って言い出したから……そんな理由で志望校変えるなんておかしいってオレが言って、それからなんか気まずくなっちゃって」 「あんな小さな家で、同じ部屋の二段ベッドで寝起きしてるような相手と気まずいって……辛すぎない?」 「その話したのって、いつ?」 「夏休みが始まって、割とすぐ。一学期の終わりに進路調査の個人面談があっただろ? あれがきっかけだったから」 「ってことは、しおちゃん、夏休みの間じゅうず~っと、あんな感じで落ち込んでたってことぉ?」  芭苗は声に怒りをこめて、自分と葉織の間に座る未知夫の膝に手を着いて身を乗り出してくる。逆に未知夫は体の動きにもあらわれるほどに、葉織に対してどん引きである。 「だったら新学期まで待つなんて悠長にしてないで、さっさと電話でもして呼び出して、こうやって相談すれば良かったじゃん!」 「ハナちゃんは中学バスケ部引退の夏だし、みー君だって受験勉強頑張ってる時だと思って。オレ達のもめ事なんかで呼び出せないなって」 「そんな友達甲斐のないこと言うなよ~。これくらいの時間が持てないほど、俺達を薄情だって思ってんの?」 「そんなことないけどさ……」
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