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こうして、僕の波乱に満ちた高校生活が幕を開けた。
「ねえ、君は自分の能力がどれほど周りに不幸を及ぼしているか、気付いているだろう?」
「何のことだかわからないんだけど」
転校生はさっそく、僕に接触してきた。転校初日は睨むだけで話しかけることもなくただ僕の後ろの席で、クラスメイトに囲まれていただけだった。高校生にもなって、GW明けという微妙な時期に転校生が来るのは珍しい。そのため、興味を持ったクラスメイトが転校生に群がることに不思議はない。しかし、すぐにその熱は冷めていく。次の日にはもう、クラスメイトの興味は薄れたのか、誰も転校生に近づくものはいなくなった。
次の日、転校生は僕が一人でトイレに向かったのを見て、ついてきた。僕はツレションとかいう、仲間と一緒に行動するタイプではない。そこを見計らって転校生が話しかけてきた。突然、僕の能力の核心に触れた質問に白を切ってみる。
「それ以上、能力を使うつもりなら、僕は君を消さなくてはならない」
「能力者を排除するために、うちの高校にやってきたわけ、か」
漫画みたいな展開だ。どうやら、転校生には僕を消すための算段が付いているようだ。転校生は、冗談を言っているようには見えない。真剣な表情でじっと僕の反応をうかがっている。
(さて、転校生をどう扱うべきか)
転校生を意のままに操ることは簡単だ。他人を操るなど、紙に書いたことはないが、実現不可能な願いではないだろう。すでに自分の能力はどうやって知ったのかばれているはずだ。紙に書いたら何かしらの力が働いて、僕の言うことを聞かざるを得ない状況になるだろう。
「僕には能力が効かない」
しかし、心を読まれてしまったのか、転校生は先に僕の行動を止めてきた。そんなことを言っても、試してみないとわからない。
「僕は君を排除して、これ以上、不幸な人間を増やさないようにしなくてはならない」
「そうなんだ。じゃあ、僕が不幸になってもいいというわけだね」
僕の能力が効かないのは、はったりかもしれない。だとしたら、もっと面白いことを思いついた。
「何を」
「こうするのさ。これ以上、不幸な人を増やしたくないんだろう。だとしたら転校生。お前はオレの行動を止めるしかない」
ほんの出来心だった。別に自殺しようと本気で思ったわけではない。ただ、こいつの困った顔が見たくなった。
オレは廊下の窓を開けてそこから飛び降りた。オレ達一年生のクラスがあるのは二階。窓から飛び降りたところで、まず死ぬことはないだろう。
「馬鹿か!」
飛び降りた瞬間、走馬灯のように今まで不幸になってきた人間を思い出す。最初にかけっこで1位を取った時に隣にいた元1位の男の青白い顔。受験で失敗したクラスの室長。その他、いろいろな人の顔が頭をよぎった。
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